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「どうかしたの?」
その時真由が入ってきて、話をしているふたりに目を留めた。
「真由先輩っ。京香先輩って、今橋先輩と付き合ってるんですか?」
物怖じせずに尋ねてくる玲美の顔を数瞬じっと見て、納得したというように笑ってから眉を下げ、かすかに困った様子を含めて答える。
「……あぁ、そういうことね。玲美ちゃんには悪いけどその通り。高校の時から付き合ってるらしいからあのふたりも長いわね。涼夜くんの方が京香にベタ惚れだから、割って入るのは諦めた方がいいかな」
「あーあ、残念。でもあたし、絶対大学の間に彼氏作るんだ。ねね、真由先輩。真由先輩は付き合ってる人いるんですか?」
やっぱり、とからりと言う玲美に、真由も海弥も笑って返した。そんなあっけらかんとした玲美に苦笑しながらいるよ、と答える真由と、興味津々にどんな人? どこで出会ったんですか? と聞いている玲美。
新しい大学生活に手一杯で、まだそんなことまで考える余裕もなかった海弥は、羨ましい気持ちでふたりを見ていた。
──彼氏かぁ……。いたら楽しそうだけどなぁ──
ぼんやりと考えていると、金槌を持った高遠の真剣な横顔が頭に浮かんできた。無意識のうちのそれに、思わず目を白黒させてしまう。
──高遠先輩……? どうして……──
心のうちで密かに名前を思うと、またひとつ鼓動がトクンと鳴った。
「海弥? そろそろ行こう」
いつの間にか話は終わっていたらしく、トイレの扉を開きながら玲美が振り返って言った。先に出て行った玲美の後ろで、真由が海弥に耳打ちする。
「海弥ちゃんは高遠くんかな? 安心して。彼ね、たぶん誰とも付き合っていないよ」
「えっ」
驚き、今度こそ口を開いて何も言えなくなった海弥を置いて、ふたりは先に行ってしまった。
──私……。高遠先輩のことが……?──
慌てて追いかけながらも、戸惑いは治まることはなかった。
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