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第1話 迷入
「ぷはぁっっっ! はぁ……はぁ……俺は助かったのか……?」
志都は息も絶え絶えだったが、かろうじて岸に這いあがることができた。けれど、水をふんだんに蓄えた詰襟服のせいで、体が鉛のように重い。
辺りを見回したところで志都はぎょっとした。視界は黒一色で、なんの風景も映っていなかったのだ。目をこすってみたが、やはり闇は闇のまま目前を覆いつくしている。
志都は視力を失ったのかと思ったが、時間がたつと次第に目が慣れてきて、周囲の状況が把握できるようになってきた。同時にここが夜の世界だということに気づいた。
川岸で仰向けになり、体力を取り戻そうと息を整える。空は厚い雲に覆われていて、星も月も見えなかった。
いったいどれだけの時間が経過したのだろうか。志都はなぜ夜が訪れるまで水中をさまよっていたのか疑問を抱いた。けれど、とりあえず生き延びられたのは幸いだったと胸をなでおろす。
そして、かろうじて視認できた風景は確かに川辺だったが、両岸は木々に囲まれていて、辺りには志都の背丈よりも大きなごつい岩石が点在していた。野生美あふれる渓流のような川の姿に、志都はひどく不安な気持ちになった。
――どこなんだよ、ここは。まるで山奥まで遡上したみたいだ。それとも俺の知らない河川と繋がっていたのか?
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