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プロローグ
世界が一番綺麗に見える瞬間は自分の命が消えゆく時なのだと、どこかで聞いた記憶がよみがえる。
そのとき、神野志都は水の中から見上げる青空の美しさを、思い知らされていた。
水を吸い込んだ詰襟服はひどく重たく、意志の通りに体を動かせない。あがいてもあがいても力は奪われ、志都は死の淵へと引きずりこまれゆく。さして深くない清流だと思っていたのに、まるで棺に閉じ込められ蓋を閉ざされるような恐怖だった。
そして、橋の上から川に転落をしてゆく間にみた最後の光景は、憎んでも憎みきれない、あの三人の姿だった。
ふたりは志都をいたぶり続けてきた、高校でカースト上位のクラスメート。それからもうひとりは――ストーカーさながらに志都に付きまとい始めた他校の女子生徒だった。
――なんで俺にはろくでもないやつらが集まってくるんだよ。俺はゴキブリホイホイか?
志都は身上の不幸を恨まずにはいられない。志都の唇から吐き出された怨念は透明な気泡となり、揺らぎながら地上の世界に舞い上がっていく。
転落の原因は、志都がストーカーに捕まったところをクラスメートに発見され、そいつらが一悶着を起こしたことだった。そのとばっちりを受けたのが志都だった。
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