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「でも良かったよ。今日のために最終話を復習してきた甲斐があって」
「あ、昨日見てきたんだ」
「なんだかんだ真面目に観るのは初めてだったからな。古いアニメでも人間ドラマがしっかりしてたら今の目でも十分観れるんだなって感動したよ」
しみじみ立川さんが言う。その感想は私も日々感じていた。私もうんうん頷く。
ああ、彼も沼にハマりし同じ穴の狢なんだ。
でも今、なんだか気になる言葉が飛び出したような。
「初めてって?」
「ああ。通して観るのがって事ね。今まで一気観はした事なかったし」
そうだったっけ。二人で語り合った時にそんな事言って無かったような。
ていうか立川さん、昨日は普通に仕事だったのでは。
「一気観って昨日から? 50話分をよく観れたね」
「そうだな。かいつまんで観たからね。メインストーリーに関係なさそうなエピソードは飛ばしたりして」
「それって、一気観って言わなくない?」
「あ、ああ。1.5倍速! 関係ないエピソードは早回しにしたんだよ」
「ふーん……?」
なんだか立川さんの顔色がどんどん悪くなっていく。さっきまで真っすぐ見据えていた目も泳いでいて、明らかに動揺している。
「大丈夫? お水でも飲む?」
「……いや、大丈夫。というか、これからはこういう隠し事は良くないな」
立川さんは観念したように、こう続けた。
「実を言うと、今だから白状するけどさ。俺がアニメを見るようになったのはここ最近の話。宮本さんに会ってからなんだ」
……? どういうことだろう。
「それまでは全然マンガとかアニメに興味がなくて。で、大学に入って宮本さんに出会った。あれは一目ぼれだったなぁ。君から目が離せなくなって。それで、宮本さんがアニメファンだって聞いてさ。話を合わせるために勉強したんだ。君はマイナーどころが好きだからな。Gガリバーはまだマシな方で、配信すらしてないアニメもあって苦労したよ」
「それって、嘘をついてたってこと? あんなに一緒に作品愛を語り合ったのに?」
「嘘だなんてそんな大げさじゃないって。いや、悪いとは思うよ? そのことはゴメン。でもほら、有名な青春映画でもあったじゃん。好きな女の子が読みそうな本を片っ端から読み漁って、図書カードに自分の名前を書いたりしてさ」
「その映画は興味を誘うきっかけ作りでしょ。気を引きたかったのと、嘘ついてまで話を合わせてたのとは違う」
「だから、そんな大げさなことなんかじゃ――」
なんだか急に立川さんが遠く感じてしまう。
彼にとって作品は推しているから観るんじゃなくて、私と話を合わせるためのものなんだ。
「今日は帰るね」
「あ、宮本さん!?」
とっさに私は席を立つ。止めようと立川さんが追いかけてくるけど、今は彼の顔をまともに見れない。
外に飛び出した私は、そのまま彼を振り切り、逃げるように自宅ヘと急いだ。
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