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正午になるとユミは台所へ行った。
午前中の仕事を終わらせ実家の食堂に行くと、豚の生姜焼きとたっぷりのキャベツの千切りにレモンが添えられ、タコの刺身とワカメの酢の物、ほうれん草のお浸し、厚焼き玉子、大根おろし、しじみの味噌汁が、彩美しく配膳されていた。
「スゲーな。昼から料亭気分。」
「お味噌汁の味は薄くないですか?」
ユミが心配そうに尋ねる。
「濃かったら自分でお湯を足せばいいのよ。」
母はいつも通りの割り切りだ。
「美味いよ。嬉しいなあ。ユミが母さんと仲良くしてくれて。」
「やっぱ昔の女性は基本ができてるからね。これで幽霊じゃなかったら申し分ない嫁なんだけど・・・」
母は人が傷つくような無理難題を平気で言ってのける。
「ごめんなさい。お母様。そればかりは努力の仕様もございません。」
ユミは常に下手に出て母をタテる。
「謝ることないよ。幽霊だって立派な人間さ。体がないだけで心は生き生きしてるんだ。母さん、ユミがつらくなるようなこと言うなよ。」
「あら冴月。ユミちゃんを庇って私を非難するとは、たいした度胸ね。やっぱり守るべき女性ができると男らしくなるのかもしれない。まあ、いいわ。幽霊でもなんでも、冴月を大切にしてくれるなら、それが一番。」
母は、まんざらでもなさそうにニヤニヤしながら俺を見ている。
ユミは俺の耳元で小さくささやいた。
『ユミは母さんを大切にしてくれる女性だから、俺は安心してるよ。』
ぅわ~っ・・・かつての自分には想像もできない言葉だけど、俺はユミの指示に従い、勇気を持って、そう言ってみた。
すると、何ということだろう。
母は急に涙ぐんだ。
母はしばらくティッシュで涙を押さえていたが、少し落ち着くと
「冴月から、そんな優しい言葉を聞けるなんて・・・」
と、涙声で言った。
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