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その夜、寝る前にベッドの中でユミをそっと抱きしめながら聞いた。
「ねえ。ユミはもう死んでるんだから、俺が死ぬまで、ずっと一緒にいてくれるよね?」
「それが・・・私にはわからないのです。一般的には、思い残すことが何もない場合、霊魂は体と共に昇天することになっております。どうしても気がかりなこと、死んでも死にきれない残念な思い、怨みの念などが強い場合に、体を失っても霊魂は地上に残ってしまうようです。」
「だったら、ユミは幸せになっちゃいけないのか?もう死んでもいいと思うほど心が満足したら消えてしまうんじゃないのか?」
「そうかもしれません。」
「ヤベ~~ッ!だったら俺は、どうすればいいんだ?」
「当分、その心配はないと思います。なぜなら、私には死んでも死にきれないくらい気がかりなことがありますから。」
「なんだよ・・・そんな気がかりなことって?」
「冴月先生とお母様の関係性です。看護師長の山野さんも心配です。代議士の川森〇〇も心配です。」
「そんなに?母さんと山野はわかるが、川森代議士の何が心配なのさ?」
「川森氏の後釜に冴月先生を擁立しようという画策が密かに進行しています。」
「マジぃ~? 俺、政治家とか絶対無理。それでなくたって、母さんや山野の尻に敷かれてるというのに。」
「そういう軟弱な人間が政治家には向いているのです。強い影の支配者にとっては恰好の餌食です。自分たちの思う通りに操れる優柔不断な冴月先生のような人物は、まさに絶好の適任者です。陰謀の発端は、お母様ですよ。」
「なにぃ~!? 鬼母めが・・・」
「でも・・・冴月先生にとって、それは地獄だと私は思います。何としても、その陰謀だけは阻止しなければなりません。そう思って、私は姿を現す決意をしたのです。」
「ユミ。いきなりだけど愛してるよ。ありがとう。本当にありがとう。俺を助けてくれ。守ってくれ。メシなんか用意しなくてもいい。母さんのご機嫌を取る必要もない。とにかく、俺は政治家になりたくない。その計画だけは、どんな卑怯な手を使ってもいいから阻止してくれ。化けて出るとか・・・呪うとか・・・何でもいいからさ。」
「任せて下さい。私がこうして冴月先生とお母様の前に出動した主な目的は、そのミッションをクリアするためです。私が24時間、冴月先生をガードしているのですから、ご安心下さい。もし、私がいない間に意味不明の電話や勧誘があっても相手にしてはいけません。お母様は、わざと私を遠くへ連れ出している間に何かとんでもない陰謀を企む可能性はありますから。」
「ユミ。急に不安になってきた。本来なら、頑張って、俺自身が強く自己防衛すればいいだけの話なのに。俺って、ただバカ真面目に表の世界を真っ直ぐに歩かされてきたから、裏工作とか陰謀というものが、どんなものか想像もつかないよ。」
「知ってます。純粋無垢な冴月先生の辞書には陰謀という言葉はないと思います。冴月先生は、本来のお仕事で決してミスしないように気合を入れて下さい。敵は、少しでも亀裂を見つけると爪を差し込んできます。患者さんへの一言一言にも注意を払って下さいね。常にボイスレコーダーで録音されていると思い、セクハラ、パワハラ、その他ありとあらゆる差別用語や不適切な発言をなさいませんよう、最低必要限の伝達を目標にして下さい。」
「マジかぁ~。結構キツいなぁ。」
「念には念をいれて。備えあれば憂いなしです。」
「わかったよ。」
「でも、安心なさって下さい。たとえ、どんな事態が発生しても私は全力で冴月先生の自由と幸せを守ります。さあ、だから・・・もう、おやすみなさい。それとも・・・気持ちよくして差し上げましょうか?」
「ああ・・ユミ・・愛してるよ・・ああ・・もう離れられないよ」
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