熱を求めて

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熱を求めて

「はぁ、はぁ…」 熱く交わった体は火照り、呼吸もまだ荒い。 「(みなと)、良かったよ、また頼むわ」 つい先程まで「好きだ」「可愛い」を連呼していたのに終わってしまえばアッサリしたものだ。 脱ぎ散らかした服を着終えると、別れの挨拶も無く相手は去って行った。 放課後、幽霊部員がほとんどの科学部で俺は恋人との逢瀬をこの狭い準備室で楽しんでいた。 恋人……と言うにはアッサリし過ぎて笑えるな。 重だるい身体を持ち上げ、長目の前髪をかき上げた。 ──カタン── 静まり返った部屋に小さな音は大きく響いた。 「……何?優希(ゆうき)、また覗き?」 「覗きじゃねぇよ。俺が来るの知っててやってんだろ?!お前、いい加減にしろよ!」 科学室に続くドアを大きく開け、眉を吊り上げ怒りを露わにした優希が入って来た。 何で科学部?と言う程、ガタイが良く、真面目を絵に書いた様な制服の着こなし、黒い短髪に切れ長の黒い瞳の笑顔を見せればモテるだろうにと言う容貌だ。 だがその顔に笑顔が浮かぶ事は稀だろう。 「真面目に部活するヤツなんて居ないだろ? 俺がここでやってるの知ってて、お前の方が来てるんじゃん」 その顔ももう飽きたなと思いつつ、手近なシャツを拾って袖を通す。 「あいつ、誰だよ!昨日のヤツとは違うだろ?」 優希がシャツの胸ぐらを掴んで引き寄せる。 間近で見る優希の瞳は、怒りと……嫌悪の感情で満ちていた。 直視出来ず俺は目を逸らす。 「お前には関係無いだろ。ほっとけよ」 優希の胸を押すがビクともしない。小さく舌打ちする。 「何?優希も俺としたいの?いいぜ、俺は気持ち良ければ誰だって良いんだ」 俺は優希の顔を見上げてニヤリと笑う。 制服のボタンを外すとズボンのベルトに手を掛ける。 手慣れた物だ。 「は?!お前何言ってんのか分かってるのか?!」 焦る声が耳に入るが遮断する。 ベルトを外しながら露わになった鎖骨から胸板のラインにキスを落とす。 「やめ…ろ!お前!!やめろって言ってるだろ?!」 髪を引っ張られ抵抗されると、さすがに痛くて動きが止まる。 ハァ、ハァ、とお互い肩で息をしながら睨み合う。 「俺は身体だけなんて間違ってると思う!」 真正面から叩きつけられる。 「……へぇ?半勃ちで言われてもねぇ。俺、上手いよ?男が嫌なら挿れないからさ、抜いてあげるよ?」 ペロリと唇を舐める。 「いらないって言ってるだろ?! なぁ、何でそんなに依存してるんだよ。そんな汚れたお前、見たくねぇよ……」 カチンと来た。何で俺がこんなになったか……だと?! 「見たくなきゃ見るなよ。欲しい物が手に入らないんだから人肌位求めても良いだろ? こんな俺が嫌なら、近寄るなよ」 押しても動かない相手なので足で蹴ってやる。 「痛ってーな!!」 思い切り蹴飛ばされ、本気で怒った優希が俺を怒鳴りつけた。 声に威圧されたが、距離が少し空いてホッとする。 「お前の欲しい物って何だよ!」 「……言わねーよ」 「言えねーのなら欲しがるなよ!」 「手に入らねぇから欲しいんだろ?!」 「無いものねだりなら手に入る訳無いだろ?! 本気で欲しいなら、本気で手を伸ばせよ!!」 言われた瞬間、頭が真っ白になった。 真っ白になった頭で腕を伸ばす。 欲しい物はここにある……! 手に入るなら俺は……!! 唇に触れる数ミリの所で優希の手が遮った。 「お前……。俺の言葉、全然届かないのな。 俺を他の男達と一緒にするなよ」 俺の唇は優希の大きな掌で塞がれていた。 「……分かった。部活はもう辞める。お前には近付かない」 優希の瞳は先程以上の怒りと嫌悪で染められ振り絞った低い声で告げられた。 遠ざかる足音……。 「だから言ったじゃん。手に入らないって……。 本気で手を伸ばしたのに駄目な物は駄目じゃん」 決定的な決裂に心が抉られた様に痛い。 「あー、何も考えたくない。誰でも良いから俺を温めて欲しい」 俯き、座り込み、そう呟いた……。
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