現実

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「結局、 鑑定留置(かんていりゅうち)ですかねぇ……」  若い刑事が、年配の刑事に (たず)ねる。2人は取り調べ室をのぞけるミラーガラス裏に立っていた。  のぞき見る隣の部屋には、中央に 簡易(かんい)なスチール机が置かれ、扉側の椅子に取り調べの刑事が座っている。机を挟み向き合い座っているのは30代半ばの男だ。 「離婚調停中の……何の罪も無い嫁さんと息子を殺しておきながら、病気だから無罪にしろってか?……ったく……日本の弁護士先生方ってのは何を考えてお仕事されてんだか……」 「岸川の妄想癖(もうそうへき)はガキの頃からだったんでしょう? 親は何をやってたんすかねぇ?」 「知らねぇよ……親バカなのか世間体が恐かったのか……どっちにしろ、犯人(ホシ)逮捕(あげ)てみりゃ精神異常者(コメヘン)ってのは……ホント気分が悪いぜ!」  若い刑事はミラーガラス越しに岸川を見つめる。 「また何かブツブツ言ってニヤけてますよ、あいつ……」 「頭ん中のお花畑で、 妖精(ようせい)さんとでも遊んでやがんだろ? 妄想と思い込みで、妻子を(あや)めておきながら、ホントに自己中(ジコチュー)なヤツだよ!」  悪態をついて部屋を出る年配刑事を見送り、若い刑事はもう一度岸川に視線を向けた。  平々凡々なサラリーマンが、妻の浮気を疑い出し、DVに走り、離婚調停中にストーカー殺人、か……  岸川の (つぶや)きが気になった若い刑事は、スピーカーのスイッチを入れ、音量を上げた。 「………………ただいま……おかえり……」        < 終 >
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