夏の終わりの雨

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   やがて仄暗い空から、ぽつぽつと降り始めた雨が、アスファルトの地面の色を濡らしていく。  舗装の表面に雨粒の(にじ)んだ斑点(はんてん)が浮かんでは消え、とうとう消えなくなった斑点は、しみのように大きくなって、アスファルトの路面には、黒々とした暗色が広がっていた。  案の定、雨脚(あまあし)は急速に強くなり、屋根に降りしきる音が激しくなっていく。  そして、あっという間に、ものすごい雷雨になった。  もはや信じられないほどのどしゃぶりだ。  その猛烈な雨の水飛沫を、葵は静かに眺めていた。  突然、耳をつんざくような雷鳴がとどろく。黒い雲の中を稲妻が走り抜け、一帯が、ぼうっと明るい輝きに包まれた。  かなり近い――。  樹木の葉を打つ雨音。  地面に跳ね返る滴。  次第に雨降る音は大きくなり、夏の豪雨と崩れ落ちる。  今や、狂ったように、激しい雨がアスファルトへ注いでいた。  さっきまでの、目の(くら)みそうな強い陽射しが嘘のようだ。  雨は見る間に集まり、川のようになって、遊歩道の上を流れゆく。  マンホールの隙間に吸い込まれていく水音。  芝生にできあがる水溜り。  そのとき、割れるような雷鳴が響き渡り、鋭い稲光が、暗い空を都会のビル群へ向かって駆け抜けた。  落雷だ。――
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