夏の終わりの雨

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 それは一週間ほど前のことだった。 「あの……北沢チーフ、ちょっといいでしょうか?」  いつになく緊張した面持ちで、上野沙耶(うえのさや)は葵の前に現れた。 「あら、上野さん? 何かあったの? トラブルでも起きた?」  直接の上司でもある葵が気遣うと、沙耶は無言で首を振った。 「ええと、……滝村さんから、……チーフへ伝言を頼まれました」 「滝村さんって、ええと、隣の部署の主任の滝村重人(たきむらしげと)?」 「はい。その滝村主任が、……昼休みに、いつものカフェへ来てくれって、北沢さんへ伝えてほしいそうです。どうしてもって」 「ええ?」  いつものカフェって? よく待ち合わせに使っている、あのカフェのことだ。  重人からは、昼休みに会いたいというメッセージは朝早くにもらっていたのだが、午後すぐに会議があるので、昼休み外へは出られないと、返事をしておいただけだった。  (あわ)てて、葵はスマートフォンを取り出した。確かに、更にメッセージが入っている。既読になっていなかったので、なにかのついでに、上野沙耶に伝言を頼んだのだろう。 「ごめんなさい、上野さんが伝言係にされちゃったみたいで」 「い、いえ、さっきまでチームで合同ミーティングをしていたので、頼まれただけです」  真面目な表情で、沙耶は答えた。
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