夏の終わりの雨

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   女子事務社員の相談に、営業総合職の多忙な男性社員が相談に乗ることはまずない。葵のいる部署では、事務職とは明らかに仕事内容が違うからだ。むしろ、相談に乗るべきは、内勤総合職の葵の役割だった。だから、そうしてきたと思う。 「お前もさ、ちゃんと新入社員を見ておいてやらないとダメだろ。早いうちに、お前が相談に乗ってやっていたら、沙耶と俺の関係も違っていたと思うよ」  重人がため息をついている。 「だけどさ、俺、男だし、責任は取るつもりだから」  葵は言葉もなかった。隣の沙耶は、相変わらず、涙をハンカチで押さえている。小さな背中が震えていた。 「俺、沙耶と結婚する」  葵は、思わず、指にはめられている、一年前、重人から送られたステディリングを見詰めていた。小さなルビーの(はま)った細いリング。もう少ししたら、仕事が落ち着くから、そのとき、二人で将来のことを考えようって言わなかった? 「葵。沙耶と同じ部署にいて、辛い思いをさせるのはいけないと思うから、葵が異動願いを上に出してくれ」 は? 呆れて声も出ない。 「沙耶もお前も辛いだろうし。沙耶は身重だから、今までの仕事を続けていくだけでも大変なんだぞ」
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