不審者

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不審者

 俺は七十過ぎの老人である。昨今の子供達を取り巻く状況については、思うところがあった。テレビでは幼い子供を狙った犯罪が毎日のように報道されている。俺にも孫娘がいるから、他人事ではないのだ。    それにしても、怨恨による犯罪ならまだ理解も出来るが、何の罪もない穢れ無き天使達を狙うとは許しがたい事である。俺の十歳になる孫娘は、毎日二キロも歩いて学校へ通っているのだ。途中で不審者に目を付けられてしまう可能性だって無いとは限らない。  俺は居ても立っても居られなくなり、その日の朝は可愛い孫娘の登校を陰ながら見守る事にした。黒い皮のジャンパーを羽織り、禿げ隠しのやはり黒い皮のキャップを被って、こっそり後を付けていった。  孫娘は友達と楽しそうにお喋りしながら、通学路を歩いている。俺は周囲に怪しい奴や車は居ないか、神経を尖らせていた。あそこの影に停めてある車はちょっと怪しくないか? とか、この脇道は人気が無くて危ないとかいった具合に、通学路をくまなくチェックしていった。  孫娘達は無事学校にたどり着き、俺は少し離れた所から安堵の溜め息をついて彼女らを見送った。取り敢えず何事も無くて良かった。どうせ俺は現役を引退した暇な身なのだし、これからは毎日孫娘を見送ることにしようか?そんな事を考えながら帰宅した。  夕方になって、学校を終えた孫娘が家に遊びに来て、興奮した面持ちで話し始めた。 「お祖父ちゃん、今日ね、学校で不審者が出たの。先生が気を付けるようにって」 何? 朝は大丈夫だったのに、さては下校時間を狙ったのか? 「その不審者っていうのはどんな奴なんだ? 先生は何か言ってたか?」 「うん。黒い帽子に黒いジャンパーを着て、学校の方をじーっと見てたんだって。怖いね」 「………」 俺は真実を言うべきか暫く悩んだ。
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