第一話 天狗との契約

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「嘘……迷っちゃった?」  真夏で暑いはずなのに、今の私は寒い。  背筋に冷たいものが流れる。  額に、嫌な汗が滲んできた。  私は焦ってめちゃくちゃに走り回る。  きっとパニックに陥ってたんだと思う。    焦って走って、疲れ果てた頃にそこに着いた。  鮮やかな緑に囲まれた美しい池に……。 「綺麗……」  私はその池のあまりの美しさに、道に迷って焦っていたことも忘れてしまった。      池の縁に近寄ると、足に力が入らなくなって私は地べたにへたり込んだ。  サンダルで山の獣道を走り回って、疲れ果てた足が根を上げたみたい。 「ホント……疲れた……」  呟いて、私は草の上に倒れるように寝転がる。    緑の独特な匂いが鼻をつく。  土の匂いと混じって、自然の温かさを感じさせてくれる。  熱い日差しを木の葉が遮り、池の水が涼しさを運ぶ。  こんな心地良い状態。  眠りたくなるのは必然だった。  まだ日は高いし、少しだけなら昼寝しても大丈夫だよね?  そして、私は目を閉じた……。
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