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第一話 天狗との契約
「実花? どこ行くの?」
玄関でサンダルを履いていると、お母さんに声を掛けられた。
「散歩。ここら辺に何があるか把握しておきたいし」
「“何があるか”ねぇ……。こんな田舎、わざわざ見て回るほどのものないじゃない」
ため息混じりに言ったお母さんの言葉に、私は困り顔で「あはは……」と笑うしかなかった。
でもそんな不満そうな顔をしていても、お母さんは外出の許可をくれる。
「まあいいわ、行ってらっしゃい。でも早めに帰ってくるのよ? あんた自分の部屋の荷物も全部片付けてないでしょう?」
「うっ!」
私は痛いところを突かれ言葉に詰まる。
そんな私にお母さんはまたため息をついた。
私はそれから逃げるように家を出る。
「じゃあ行ってきまーす!」
横開きのドアをピシャンと閉めて、お母さんの声が聞こえないところまで急いだ。
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