1. ウサギとタキシード

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「話を戻すけど、柏崎くんが女の子のキーホルダーをつけているから、男の子のキーホルダーをつけている子が彼女じゃないかって噂になっているのよ」 「男女ペアで交換してるって意味ね」 納得したように話す美優に、里奈ちゃんがうなずく。 「真相が知りたくてうずうずするわ! ねえ、彩希ちゃん、なにかわかったら教えてね」 「なんで彩希に頼むのよ?」 「元白ウサギのキーホルダーを持っていたよしみよ」 「意味がわからないから」 呆れた口調の美優を歯牙にもかけず、里奈ちゃんはさらなる情報を求めて慌ただしく教室を出て行った。 「……ねえ、柏崎のキーホルダーってもしかしたら彩希のじゃない?」 「えっ?」 唐突な親友の発言に瞬きを繰り返す。 「だって失くしたのって柏崎と電車でぶつかった日でしょ?」 「そうだけど、実際にどこで失くしたかはわからないし」 慌てて返答する私とは対照的に、美優が穏やかに告げる。 「でも失くした日にぶつかった柏崎が持ってるって偶然にしたらできすぎじゃない? 今も彩希のは見つかっていないわけだし」 「もしそうだとしても、わざわざつけたりする?」 拾ったなら駅などに届ければいいし、自分が持ち歩く必要はないだろう。 「そこが不思議よね。よし、柏崎に聞きに行こう」 「えっ、特進クラスだよ?」 明らかに雰囲気の違う特進クラスは近寄りがたいし、あんな会話を交わした後で柏崎くんと再会するのも気まずい。 「ほら、行くわよ」 すでに立ち上がっている親友に促され、焦りを隠せない。 「もう少しで予鈴だし、今頃ほかの女子に質問攻めにあってるかもしれないからちょっと落ち着いてから行かない?」 行動力がありすぎる親友を必死に宥める。 「それもそうね。里奈みたいに真相を知りたがっている女子は多そうだし」 なんとか納得してくれた親友の姿にホッと胸を撫でおろす。 このままこの騒動が過ぎ去ってくれたらいいのにと願わずにはいられない。 私の思いが通じたのか、今週は移動教室や日直、係などの仕事が続き、慌ただしい休み時間を過ごす日が多かった。 真相究明を急ぐ親友は不満そうだが私には有難かった。
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