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「この間、電車で転びかけた子だよな?」
うつむいたままの私に彼が声をかけた。
「お前が女子を覚えて、気にかけるなんて珍しいな」
多田くんの声が響く。
「いや、印象が強すぎて」
「どんな印象?」
美優が興奮したように大きな声で尋ねる。
「ありえない体勢で転びかけていて、面白すぎて」
面白い?
「本気で転びそうになっていたのに失礼じゃない?」
あまりの言いように頭を上げて反論すると、綺麗な二重の目が私をじっと見つめていた。
「やっとこっち見たな」
ニッと口角を上げるその姿さえカッコイイなんて、どこまでも嫌味だ。
「どれだけバランス感覚悪いんだよ」
「余計なお世話です。仕方ないでしょ」
「ハイハイ。言っとくけど、俺は友だちになるのを拒否してないけど?」
余裕綽々に言い返されて反応に困る。
やはり先ほどの失言は聞かれていたらしい。
「柏崎玲生です。よろしく、紺野彩希さん?」
「私の名前……!」
まさか、覚えていたの?
とっくに忘れていると思っていたのに。
信じられなくて、瞬きを繰り返す。
「驚きすぎだろ」
「玲生が普段、女友だちをつくろうとしないからだろ。そんなに彩希ちゃんと友だちになりたかったのか」
クックと声を漏らしながら、多田くんが面白そうに話す。
「成亮、うるさい」
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