1. ウサギとタキシード

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「その代わり、紺野さんはこっちをつけて」 そう言って、やっと絡めた指を解放した彼は、上着のポケットからなにかを取り出した。 はい、と手のひらに乗せられたものはタキシード姿の白ウサギの男の子だった。 「あの、これって」 私が失くしたキーホルダーのペア商品を渡されて戸惑う。 「この間、電車で酷い態度をとったお詫びと友だちになった記念って意味を込めて」 見惚れるほどの笑みを浮かべた彼が申し訳なさそうに口にする。 「玲生、まさか彩希ちゃんとペアでつける気か?」 「ああ、もちろん」 「周りに誤解されても知らないぞ? ただでさえ彼女ができたのかって騒がれてるのに」 眉間に皺を寄せる多田くんの意見に私もうなずく。 「そんなの言わせておけばいい。友だち同士でつけてるやつだっているだろ?」 飄々と言い返す柏崎くんに二の句がつげない。 多田くんも美優も顔を見合わせている。 柏崎くんってこんなに強引な人だったの? この降ってわいたような友情もなにもかもが突然すぎて、理解が追いつかない。 「外すなよ?」 念押しされて、うなずくしかできない。 しかもしっかり連絡先の交換までされてしまった。 なぜかこの日から私と彼の友情が始まった。
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