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2.「俺は彩希がいてくれるだけで十分だ」
驚きの連続だった十一月が過ぎ、十二月を迎えた。
朝の澄んだ空気の中でひとつ白い息を吐くと、電車がホームに滑り込んできた。
車内に乗り込むと反対側の扉にもたれるように柏崎くんが立っていた。
「おはよう、彩希」
彼がふわりと頬を緩めると、周囲の女性たちの視線が一斉に注がれる。
「……おはよう、玲生」
肩にかけた制バッグを片手で握りしめて、挨拶を返す。
まさかこうして一緒に通学するようになるとは一カ月ほど前には思いもしなかった。
『毎朝あの車両に乗ってるのか?』
『うん、美優と一緒に』
『へえ、じゃあ俺も明日から乗る』
『え、なんで?』
こんなに目立つ人と毎朝一緒に通学なんてしたら、周囲になんて言われるか考えただけで恐ろしい。
『最近やたら他校の生徒に付け回されるうえに、数も増えてきて困ってるんだよ』
『さすが柏崎、モテるわねえ』
親友が感心したように言う。
『美優、玲生は真剣に悩んでるんだって。いっそほかの女子と通学したらあきらめてくれるんじゃないかって話してたところなんだよ』
多田くんが恋人を窘めながら補足する。
思ってもみなかった悩みを知り、むやみに反対できなくなった。
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