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「――ご乗車のお客様は足元にお気をつけください」
いつもと変わらないアナウンスが駅構内に響く。
十月半ばに入ってもまだ気温は高く、羽織っていた制セーターの袖を捲る。
混雑した電車に乗り込み、奥の閉じている扉を目指す。
私が下車する駅まで開かないその場所は私の定位置になっている。
車内で邪魔にならないよう、肩にかけた紺色のナイロンの制バッグを手首にかけなおす。
そのとき、制服のポケットに入れてあるスマートフォンがメッセージを受信した。
【彩希、ごめん! 寝坊で乗り遅れたから、先に行って】
送り主は親友の榎本美優だった。
謝罪のスタンプが連続で送られてくる。
【駅で待ってようか?】
【本当? 彩希、優しい】
遅れて焦っていると思えない、余裕のある返信に苦笑する。
美優の最寄り駅は私の隣の駅で、この車両内で待ち合わせをして、一緒に登校している。
【返信はいいから、気をつけてね】
その瞬間、電車が大きく揺れ、メッセージを送信していた身体がバランスを崩す。
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