2.「俺は彩希がいてくれるだけで十分だ」

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ガタン、と大きく電車が揺れ、バランスを崩しかける。 すると横から大きな手でグッと腕を掴まれた。 「毎朝、本当に危なっかしいな」 呆れたように言って、彼が私を自身の身体に引き寄せる。 ふわりと彼のつけている香水らしき香りが漂い、心が落ち着かない。 「彩希?」 当たり前のように呼ばれた名前に一瞬焦る。 『友だちを下の名前で呼ぶのは普通だろ?』 あの日、屋上でそう言い切って以来、彼は私を名前で呼び捨てる。 『だから彩希も俺を名前で呼べよ』 『でも、美優も名字で呼んでるし』 『榎本は成亮が呼び捨ててるからいいんだよ』 『……意味がわからないんだけど』 『いいから、ほら。呼んで? 彩希』 低く甘めの声が私の名前を口にする。 『れ、玲生、くん』 『くん、はナシ。はい、もう一回』 『む、無理』 『ウサギ、取り上げるぞ』 『なんで!?』 『いいから、早く』 『れ、玲生っ』 半ばヤケクソのように呼ぶと、彼は嬉しそうに眦を下げた。 さらに今後は下の名前で呼ばなければ、返事をしないという勝手な取り決めまでされてしまった。
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