7399人が本棚に入れています
本棚に追加
ガタン、と大きく電車が揺れ、バランスを崩しかける。
すると横から大きな手でグッと腕を掴まれた。
「毎朝、本当に危なっかしいな」
呆れたように言って、彼が私を自身の身体に引き寄せる。
ふわりと彼のつけている香水らしき香りが漂い、心が落ち着かない。
「彩希?」
当たり前のように呼ばれた名前に一瞬焦る。
『友だちを下の名前で呼ぶのは普通だろ?』
あの日、屋上でそう言い切って以来、彼は私を名前で呼び捨てる。
『だから彩希も俺を名前で呼べよ』
『でも、美優も名字で呼んでるし』
『榎本は成亮が呼び捨ててるからいいんだよ』
『……意味がわからないんだけど』
『いいから、ほら。呼んで? 彩希』
低く甘めの声が私の名前を口にする。
『れ、玲生、くん』
『くん、はナシ。はい、もう一回』
『む、無理』
『ウサギ、取り上げるぞ』
『なんで!?』
『いいから、早く』
『れ、玲生っ』
半ばヤケクソのように呼ぶと、彼は嬉しそうに眦を下げた。
さらに今後は下の名前で呼ばなければ、返事をしないという勝手な取り決めまでされてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!