2.「俺は彩希がいてくれるだけで十分だ」

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「大丈夫か?」 少し前のやり取りを思い出していた私は彼の声にハッと我に返る。 「う、うん。平気」 「転びそうになったらちゃんと掴まれよ」 軽く眉間に皺を寄せた彼が少し屈んで、私の顔を覗き込む。 そのとき制バッグにつけられたウサギの女の子のキーホルダーが目に入った。 ちなみに私も、以前ウサギの女の子をつけていた場所に男の子のキーホルダーをつけている。 きちんとつけているか、と時折玲生になぜか確認されるせいもある。 この状態を、目ざとい彼のファンになにか言われるのではと心配だったけれど、意外にも杞憂に終わった。 考えすぎだったのかと安堵していると、先週半ば、彼が私の教室に突然やってきた。 『――彩希』 特進クラスの玲生が私立クラスにやってくる自体が珍しいのに、女子を呼び出して騒ぎにならないはずがない。 そもそも私と友人になったことさえあまり知られていないのだ。 昼休みの教室には女子生徒の悲鳴が飛び交った。 『キャー! 柏崎くん!?』 『なんでうちのクラスに?』 『ヤバイ、カッコよすぎ』 『待って、彩希ってまさか!?』 様々な声を無視して、彼は教室内を見回し、驚きのあまり硬直している私にもう一度呼びかけた。
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