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『彩希』
優しい声と眦を下げた姿に、心拍数が一気に速まる。
放心状態の私に代わり、隣にいた美優がため息交じりに返答する。
『柏崎、彩希に用事?』
『ああ、英語の辞書を借りたくてさ。このクラス、午後英語の授業がないって成亮に聞いたから』
『わかった。彩希。辞書だって』
『う、うん』
美優に促され、辞書を机の中から取り出す。
クラスメイトの突き刺さるような視線を受けながら、教室の入り口まで持っていくと、玲生は嬉しそうに頬を緩めた。
『後で返しに来る』
『明日でいいよ』
『いや、持ってくるよ。サンキュ、彩希』
そう言って左手で辞書を受け取り、右手で私の頭を撫でた。
『その髪型、可愛いな』
『えっ……』
今日の私の髪型は美優が編んでくれた、編み込みのハーフアップだった。
『いつものも似合ってるけど』
『あ、ありがとう』
『どういたしまして? じゃあな』
そのまま踵を返して去って行く。
その後しばらく私は頬の火照りを押さえられなかった。
背後でしっかり者の親友は興味津々のクラスメイトに玲生と友人になった経緯をうまく説明してくれていた。
きっと明日には大勢の人に知れ渡るだろう。
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