2.「俺は彩希がいてくれるだけで十分だ」

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「今日、成亮は寝坊だってさ」 「そうなの? 美優がまた怒ってそう」 「あー確かに」 他愛ない会話をしながら、電車を降りる。 ふたりでの登校や会話に近頃はずいぶん慣れた。 最初は緊張ばかりだったけれど、会話を積み重ねていくうちに彼の人柄を知るようになった。 一見無表情で近寄りがたく見えるけれど、彼の本質は思いやり深く親切だ。 電車内ではさりげなく空いてる場所に誘導してくれたり、いつも気遣ってくれる。 ちなみに玲生の実家は事業を営んでいるそうだ。 「柏崎先輩、おはようございます! あのっ、今日一緒に帰っていただけませんか?」 学校に到着してすぐ、下駄箱近くで大きな丸い目をした女子生徒に声をかけられた。 ふわりと化粧品の香りが漂う。 ふたりの会話の邪魔にならないよう少し離れようとすると、玲生が私の二の腕を骨ばった指で自身のほうに引っ張った。 「登下校は彩希と一緒にする約束だから」 口元だけ緩めて、きっぱり拒絶する。 「今日だけ、どうしてもだめですか? それと、あの……柏崎先輩と紺野先輩は付き合っているんですか?」 涙目で言い募る女の子に、彼はダメ出しのひと言を添える。 「俺は彩希と帰るって今、言わなかった? そもそも彩希との関係をなんでいちいち説明しなくちゃいけない?」 背筋が凍りそうなほどの冷たい声に、女の子はハッとしたように口を閉じる。 その後、唇を震わせ私をひと睨みして離れて行った。
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