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「きゃっ」
倒れる……!
思わず目を瞑ると、私の身体がなにか硬いものに受けとめられた。
力強い腕が腰に回ったのを感じる。
「すごい勢い」
ボソリと耳元で囁かれた低い声に恐る恐る目を開くと、私の通う私立二葉高校の制服である、グレーの制セーターと臙脂色のネクタイが見えた。
ネクタイの色は学年ごとに異なり、一年生はグレー、二年生は濃紺、三年生は臙脂となっている。
「……そろそろ離れてくれる?」
不機嫌な声にハッと頭を上げると、細身の男子生徒が眉間に皺を寄せて私を見ていた。
「あっ、ご、ごめんなさい」
混雑した車内の中で、体勢を整えできるだけ距離をとる。
どうやら私は彼の胸元に思い切り飛び込んでしまったようだ。
「わざと?」
「え?」
目の前の彼はとても整った容貌をしていた。
サラサラの漆黒の長めの前髪、幅広の二重の目を縁取る長い睫毛と高い鼻梁、綺麗な顎のラインが目を引く。
身長百五十六センチメートルの私より頭ひとつ分はゆうに高い彼は、百八十センチメートルを超えているだろう。
「俺が受けとめるのを狙って転んだ? まさか写真撮ったりしてないよな?」
「ええと、なんの話?」
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