2.「俺は彩希がいてくれるだけで十分だ」

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「彩希、最近俺を避けてないか?」  放課後の図書室で、若干不機嫌な声の玲生に尋ねられた。 玲生への恋愛感情を自覚してから一週間が経っていた。 今日は以前から約束していた四人での勉強会の日だ。 玲生は学校での難しい授業をこなした後、自宅で受験勉強は元より、両親の事業に関する勉強もしているという。 多田くんと美優はまだ来ておらず、一番乗りだった私は自習スペースで英語の問題を解いていた。 ゆっくりと歩いてきた玲生は私の向かい側に腰を下ろし、普段より低い声で話しかけてきた。 「俺、お前になにかしたか?」 まさか、あなたが好きだから意識しすぎて話せないなんて、言えない。 心の中の葛藤をうまく伝えられず、視線が泳ぐ。 こんな態度をとりたいわけじゃないのに、なんでうまく立ち回れないんだろう。 世の中の片想いをしている人たちは好きな人にどうやって接しているの? 「――彩希」 玲生が、すっと私の額に長い指を伸ばす。 突然の行動に驚いて、思わず身体を後ろに引いてしまった私の腕を、逃がさないとばかりに玲生がもう片方の手で掴む。 「熱はないな」 至近距離に迫る美麗な面差しに息を呑む。 幅広の二重の目が心配そうに揺れていた。 「ないよ、大丈夫!」 「彩希、声が大きい」 そう言って、自身の人差し指をそっと私の唇に押しあてる。
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