2.「俺は彩希がいてくれるだけで十分だ」

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「さっきから思ってたんだけど、彩希、セーター着てないのか?」 ブラウスにスカートという私の装いを見た玲生が尋ねる。 彼自身は制カーディガンを着ている。 我が校の制服は基本的に男子も女子もブレザーに白のブラウスにパンツ、スカートとなっている。 ただし、気温や体調にあわせてグレーの制カーディガン、制セーターの着用が可能だ。 ブレザーは容易に洗濯ができないのと動きにくいといった理由で、大半の生徒が普段はセーターかカーディガンを着用している。 「うっかり乾燥機にかけちゃって、縮んで着れなくなったの」 卒業間近の今になって買うのは勿体ないので、我慢しようかと思っていた。 「はあ? なんで言わないんだよ。体調を崩したらどうするんだ。今だって調子悪そうなのに」  明らかに不機嫌な低い声にたじろぐ。 「ええと、それはそうだけど」 「ほらこれ、着ろ」 目の前に差し出されたのは玲生の制セーターだった。 「あ、ありがとう。でももう帰るだけだから、大丈夫」 断った途端、バサッと上からセーターを強制的にかぶらされた。 「ちょ、ちょっと!」 強引に着せられたセーターからは僅かにシトラスの香りがした。 彼が愛用している香水の香りを感じるだけで胸がいっぱいになり、ますます頬が熱くなる。 まるで彼に抱きしめられているみたいで落ち着かない。
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