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「俺はこのカーディガンがあるから、それは彩希がずっと着てろ」
「いいよ、悪いし」
「いいから。それ、昨日教室に置き忘れてて荷物になってたんだ。着なかったらもう勉強教えないぞ」
痛いところをつかれて反論できない。
そんな私を彼が眉尻を下げて見つめてくる。
「彩希がしんどそうにしている姿を見たくないんだ。後から返せなんて言わないから着てろよ?」
「……ありがとう」
お礼を伝えると、私の頭を彼が大きな手でぽん、と撫でた。
ぶっきらぼうな言い方の中に潜む優しさにキュウッと胸が締めつけられる。
「どういたしまして。ちゃんと毎日着ろよ。洗濯してなくて悪いけど」
「ううん、嬉しい」
「彩希にはやっぱり大きいな。手首、細くて折れそう」
そう言って玲生はそっと私の手首に長い指で触れ、袖口を折り返す。
伝わる玲生の指先の感触とセーターの温もりが優しくて、想いがどんどん膨らんでいく。
大好きな人のセーターを着れるなんて夢のようで、嬉しいのに泣きたくなる。
この気持ちを素直に伝えられたらいいのに。
だけど弱虫な私にそんな勇気はない。
こっぴどく拒絶されてしまったら、きっと受験どころではなくなってしまう。
制セーターを交際中のふたりが交換するのが最近校内で流行っているのを、玲生は知っているのだろうか?
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