2.「俺は彩希がいてくれるだけで十分だ」

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ちなみに美優は以前から多田くんのセーターを着用している。 さすがに男性の多田くんに美優のサイズは小さいので、多田くんは自身のカーディガンを着ているけれど。 この行為は、単なる友だちへの親切でそれ以上の意味なんてないだろう。 第一、私は玲生の恋愛関係の話はなにひとつ知らない。 恋人はいないと美優に以前教えてもらったくらいだ。 そんな私がこのセーターを着て、本当にいいの? 恋は本当に厄介だ。 今までなんとも思っていなかった些細な出来事が気になって、好きな人の全部を知りたくなってしまう。 勝手な独占欲に胸が苦しくなる。 「彩希、急に黙ってどうした?」 「あの、誤解されないようにしなきゃと思って」 「誤解?」 もう片方の袖口を折り返してくれながら、彼が怪訝そうに首を傾げる。 僅かに手首に触れる指先をどうしても意識してしまう。 「このセーター、玲生のイニシャルが入ってるし、流行ってるし」 焦っているせいか、変な文法になる。 違う、そんなことを伝えたいわけじゃないのに。 「ああ、彼女に自分のセーターをあげるってやつだろ? 以前も言わなかったか? 俺は誤解されたらされたでいい。困らないし、彩希が俺のセーターを着てくれたら嬉しい」 だからずっと着てろよ、と三日月形に目を細めた玲生が念押しをする。 私の支離滅裂な物言いを正しく理解してくれたうえでの優しく甘い命令に、心が震えた。 なんでそんな言い方をするの?  本音を口に出せない私は、縋るようにセーターの裾をギュッと握りしめた。
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