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どうして写真を撮ったりわざとぶつからなきゃいけないの?
そもそも初対面の人にそんな真似はしない。
けれど、スマートフォンに向けた彼の視線は明らかに私を疑っている。
「友だちが遅れるっていう連絡に返信していただけなんだけど……」
どうぞ、と美優とのメッセージ画面を提示すると彼は目を細めて軽く一瞥する。
「紺野、さん?」
「え?」
「名前」
長い指で彼はメッセージの私のアイコンを指す。
「う、うん」
「嘘はついてないみたいだな。悪かった」
「いえ……」
謝罪に返答した途端、彼が低い声で呟く。
「紛らわしい真似すんな」
「へ?」
若干棘を含んだ物言いに戸惑っていると、背後から女の子の声が微かに聞こえてきた。
「きゃあ、柏崎くんよ」
「本当、カッコいい!」
「この車両に毎日乗ってるのかな?」
女の子たちの声に、彼の表情がどんどん険しくなっていく。
スッと私から視線を逸らし、無言で窓の外を見つめる。
突然の周囲を寄せつけないような硬い雰囲気に、それ以上声をかけられなくなった。
気まずい空気の中、一秒でも早く下車したいと願う。
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