1. ウサギとタキシード

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どうして写真を撮ったりわざとぶつからなきゃいけないの? そもそも初対面の人にそんな真似はしない。 けれど、スマートフォンに向けた彼の視線は明らかに私を疑っている。 「友だちが遅れるっていう連絡に返信していただけなんだけど……」 どうぞ、と美優とのメッセージ画面を提示すると彼は目を細めて軽く一瞥する。 「紺野(こんの)、さん?」 「え?」 「名前」 長い指で彼はメッセージの私のアイコンを指す。 「う、うん」 「嘘はついてないみたいだな。悪かった」 「いえ……」 謝罪に返答した途端、彼が低い声で呟く。 「紛らわしい真似すんな」 「へ?」 若干棘を含んだ物言いに戸惑っていると、背後から女の子の声が微かに聞こえてきた。 「きゃあ、柏崎(かしわざき)くんよ」 「本当、カッコいい!」 「この車両に毎日乗ってるのかな?」 女の子たちの声に、彼の表情がどんどん険しくなっていく。 スッと私から視線を逸らし、無言で窓の外を見つめる。 突然の周囲を寄せつけないような硬い雰囲気に、それ以上声をかけられなくなった。 気まずい空気の中、一秒でも早く下車したいと願う。
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