7434人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ、あのふたり素敵ね!」
「美男美女でお似合いだわ」
周囲の賞賛の声が耳に響く。
足元がぐらぐら揺れて、行き交う人の肩にトンッとぶつかった。
力の入らない身体が傾き、地面に膝をつく。
手にしていたバッグから中身が零れ落ちた。
「彩希!」
親友の大きな声が聞こえ、グイッと身体を持ち上げられる。
「急に走り出してどうしたの? 血が出てるじゃない! 大丈夫?」
親友は私を立たせ、焦った様子で散らばった荷物とバッグを拾い上げる。
「信号が変わるわ。彩希、歩ける? もう少しだけ頑張って」
美優に腕を引っ張られて、私はのろのろと機械的に足を動かし信号を渡った。
交差点脇の小さな花壇に身を寄せると、親友が私の顔を心配そうに覗き込む。
「彩希、なにがあったの?」
「……玲生がいたの……」
声に出すだけで、胸が軋んだ。
胸が鋭利な刃物で切り裂かれたように痛い。
「柏崎が?」
親友が戸惑いの声を上げ周囲を見回す。
その後すぐに口元を引き締め、強い口調で私に話しかけた。
「彩希、服も汚れてるし、足の手当ても必要だから帰ろう」
「……スイーツは?」
「そんな状態で買い物なんて無理よ。スイーツは今度にしよう」
親友の指摘に改めて自分の姿を見ると、ストッキングは破れ、両膝から出血していた。
手の平にもうっすら血が滲んでいるし、薄手のコートの中に着ているワンピースの裾も汚れて黒ずんでいる。
「……ごめん」
「なんで謝るのよ」
困ったように眉尻を下げた親友に手を引かれ、彼女の自宅に戻った。
最初のコメントを投稿しよう!