5.刹那の恋人

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「ねえ、あのふたり素敵ね!」 「美男美女でお似合いだわ」 周囲の賞賛の声が耳に響く。 足元がぐらぐら揺れて、行き交う人の肩にトンッとぶつかった。 力の入らない身体が傾き、地面に膝をつく。 手にしていたバッグから中身が零れ落ちた。 「彩希!」 親友の大きな声が聞こえ、グイッと身体を持ち上げられる。 「急に走り出してどうしたの? 血が出てるじゃない! 大丈夫?」 親友は私を立たせ、焦った様子で散らばった荷物とバッグを拾い上げる。 「信号が変わるわ。彩希、歩ける? もう少しだけ頑張って」 美優に腕を引っ張られて、私はのろのろと機械的に足を動かし信号を渡った。 交差点脇の小さな花壇に身を寄せると、親友が私の顔を心配そうに覗き込む。 「彩希、なにがあったの?」 「……玲生がいたの……」 声に出すだけで、胸が軋んだ。 胸が鋭利な刃物で切り裂かれたように痛い。 「柏崎が?」 親友が戸惑いの声を上げ周囲を見回す。 その後すぐに口元を引き締め、強い口調で私に話しかけた。 「彩希、服も汚れてるし、足の手当ても必要だから帰ろう」 「……スイーツは?」 「そんな状態で買い物なんて無理よ。スイーツは今度にしよう」 親友の指摘に改めて自分の姿を見ると、ストッキングは破れ、両膝から出血していた。 手の平にもうっすら血が滲んでいるし、薄手のコートの中に着ているワンピースの裾も汚れて黒ずんでいる。 「……ごめん」 「なんで謝るのよ」 困ったように眉尻を下げた親友に手を引かれ、彼女の自宅に戻った。
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