1. ウサギとタキシード

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「柏崎は騒がれるのがキライだからね。でも彼女がいないせいもあって、女子からのアプローチが日々すごいみたいよ」 「そうなんだ」 ふと車内での彼の姿を思い出す。 あの不機嫌な態度の理由がわかった気がした。 「でも彩希への態度はちょっと失礼よね。成亮に告げ口しておくわ」 「いいよ、やめて。今後話す機会もないだろうし、関わりたくない」 「この機会に柏崎と仲良くなりたいとか思わないの?」 「だって別に知り合いでもないから」 「相変わらずそういうところはあっさりしてるわね」 呆れたように返答した美優が、私の制バッグに視線を向ける。 「あれ、彩希。ウサギのキーホルダー外したの?」 「外してないよ」 「ついてないわよ」 「嘘!?」 驚いて制バッグの取っ手を確認すると、今朝家を出る前にはついていた、こぶし大の白ウサギのぬいぐるみ風キーホルダーがなくなっていた。 「どこかに落としたんじゃない? 最後に見たのはいつ?」 「ええと、電車に乗る前にはあったと思う……」 「電車内で落としたのかな?」 「そうかも。でも混んでたし、今さら見つからなさそう」 「赤いワンピースとおそろいの耳のリボンが可愛かったよね」 「今度、ペアの黒いタキシードを着た白ウサギの男の子を買おうって思っていたのに」 思わずため息が漏れた。 私が持っていた白ウサギのキーホルダーは、学校の最寄り駅前の雑貨屋で販売していた。 この近辺の学生に人気で、すでに完売となっている。 お気に入りのキーホルダーまで失くすなんて本当に今日はついていない。 「とりあえず駅に問い合わせてみようよ」 美優の声に小さくうなずいて、私は校舎までの道を歩いた。
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