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「本当にいいの? もう一度柏崎と話してからでもいいんじゃない?」
「ううん、今さらなにを話せばいいかわからないし、きっと今日出会ったのはあきらめるためだったんだよ」
「でも……」
無言で首を横に振る私に、親友は悲しそうに目を伏せた。
そして小声でわかったと呟く。
それから私たちは美優の部屋にあったDVDを観て過ごした。
美優はその後一切玲生の話をしなかった。
翌朝、美優の両親に泊めてもらったお礼を告げ、私は自宅に戻った。
母に帰宅の挨拶をし、玄関を入ってすぐ右にある自室に入る。
幸いにも母は私の腫れた目には気づかなかったようだ。
着替えもせず、クローゼットの扉を開けた。
今もハンガーに掛かる彼のセーターとネクタイにそっと手を伸ばす。
触れた瞬間、彼への想いが身体中にこみ上げる。
視界が滲みそうになるのを必死にこらえ、唇を噛みしめてセーターとネクタイをたたんだ。
さらに書き物机の中から第二ボタンを取り出し、近くに置いてあった適当な蓋つきの箱に震える手でセーターとともに入れた。
ゴミ袋に入れようと思うのに手が動かない。
潔く処分できない自分が情けない。
ため息を吐いて私は箱をクローゼットの奥に押し込めた。
それからスマートフォンを手に取る。
深呼吸をひとつして、彼の電話番号やアドレス、様々な情報を震える指先で削除していく。
翌日、私はスマートフォンの番号をやっと変更した。
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