5.刹那の恋人

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「本当にいいの? もう一度柏崎と話してからでもいいんじゃない?」 「ううん、今さらなにを話せばいいかわからないし、きっと今日出会ったのはあきらめるためだったんだよ」 「でも……」 無言で首を横に振る私に、親友は悲しそうに目を伏せた。 そして小声でわかったと呟く。 それから私たちは美優の部屋にあったDVDを観て過ごした。 美優はその後一切玲生の話をしなかった。 翌朝、美優の両親に泊めてもらったお礼を告げ、私は自宅に戻った。 母に帰宅の挨拶をし、玄関を入ってすぐ右にある自室に入る。 幸いにも母は私の腫れた目には気づかなかったようだ。 着替えもせず、クローゼットの扉を開けた。 今もハンガーに掛かる彼のセーターとネクタイにそっと手を伸ばす。 触れた瞬間、彼への想いが身体中にこみ上げる。 視界が滲みそうになるのを必死にこらえ、唇を噛みしめてセーターとネクタイをたたんだ。 さらに書き物机の中から第二ボタンを取り出し、近くに置いてあった適当な蓋つきの箱に震える手でセーターとともに入れた。 ゴミ袋に入れようと思うのに手が動かない。 潔く処分できない自分が情けない。 ため息を吐いて私は箱をクローゼットの奥に押し込めた。 それからスマートフォンを手に取る。 深呼吸をひとつして、彼の電話番号やアドレス、様々な情報を震える指先で削除していく。 翌日、私はスマートフォンの番号をやっと変更した。
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