1. ウサギとタキシード

9/18
前へ
/189ページ
次へ
キーホルダーを紛失した日から半月ほどが経ち、季節はすっかり冬に移り変わっていた。 未だにキーホルダーは見つからず、駅にも届け出がなく、もうほぼあきらめている。 ちなみに柏崎くんの姿はあの日以来見ていない。 「ねえ、聞いた? 柏崎くんにとうとう彼女ができたらしいって!」 クラスメイトの大井里奈(おおいりな)ちゃんが登校してくるなり、興奮して話す。 美優も校内の情報に詳しいが、里奈ちゃんはさらにその上を行く。 「らしいって、なにその曖昧な情報」 私の前の席に座る美優が里奈ちゃんに問いかける。 「誰も本人に確認してないからよ」 なにそれ、と呆れたように美優が手を振る。 「柏崎くんの制バッグに白ウサギのキーホルダーがついてたらしいのよ」 「キーホルダーなんて、誰でもつけるでしょ。白ウサギなら以前彩希もつけてたわよ」 「そうなの?」 里奈ちゃんに聞かれて、うなずく。 「うん、赤色のワンピースを着た白ウサギの女の子」 「えっ、それ、柏崎くんのと一緒よ」 「嘘でしょ? なんで柏崎がそんなのつけてるのよ」 「わからないから噂になってるんじゃない! あれ彩希ちゃん、今はつけていないの?」 里奈ちゃんが机の横にかけてある私の制バッグを見て尋ねる。 「ちょっと前に失くしちゃって」 「柏崎くんとお揃いだったのに残念だね」 「いや、全然……」 心底残念そうに話す里奈ちゃんに躊躇いがちに返答する。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7397人が本棚に入れています
本棚に追加