番外編。①

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          弥生、糢袈、帝の遣り取りをすぐ傍で見ていた世蘿秧の悪戯心にも火が点いた。  職場ではけっして見せない弥生の百面相が面白くてたまらない。  世蘿秧には糢袈を利用して弥生を(おとし)めてやろうという悪意はもうないが、弥生の本質をとことん暴いてみたいという好奇心はある。  会社ではなかなか崩す事が出来ないと有名な弥生の鉄壁なポーカーフェイスがこんなにも簡単に剥がれ落ちてしまうのだから、世蘿秧は益々、糢袈に興味深くなり、弥生の素顔をもっと表舞台に出して拝見したくなる。 「おれも、このスーツを試着させて下さい」  糢袈が数着ほど選んだ弥生に似合いそうなスーツの内の一つを世蘿秧が手に持って試着室へと入る。スーツに着替え終わった世蘿秧は糢袈に感想を求めた。 「松崎さん、どうですか?」  弥生、帝とは一味違った雰囲気を醸し出す世蘿秧のスーツ姿は非常に洗練されており、その魅惑的な美しい風貌は思わず目を惹くものだ。  糢袈は満面の笑顔で世蘿秧に拍手を贈る。 「とてもよく似合ってます」 「お褒め頂き、嬉しいです」  世蘿秧が更に糢袈へと近付き「髪に埃が付いてますよ」などと言って糢袈の髪にわざとらしく触れたりする。  それだけではなく「眼鏡が汚れてますよ。おれが拭いてあげますね」と言って糢袈の眼鏡を外すと、そのまま糢袈の頬に手を添えた。そして指先を(なまめ)かしく動かしながら、優しく厭らしく撫で回し、糢袈の顔に自分の顔をゆっくりと近付けてゆく。       
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