番外編。①

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          糢袈はトートバッグから日記帳を取り出すと、〝絶対に忘れたくはない重要な事柄〟を、文字が雑にならないように注意しながら急いで書き記した。 「弥生、もしこの後、俺が眠って倒れたとしても、今から俺が弥生に伝える事をちゃんと聞いて、覚えて、絶対に忘れないでほしい」  青信号が点滅する。  決意した糢袈が大きく一つ深呼吸をする。 「弥生ーー!! 俺はメチャクチャ格好良い弥生の事が、メチャクチャ大好きだぁーーー!!」  そう大声で叫ぶと同時に糢袈は横断歩道を走って渡った。  弥生だけではなく、周囲にいた人達も驚いた顔で一斉に糢袈のほうを見る。  そんな四方八方から集中された視線を振り切るかのように、糢袈は猛スピードで道路の反対側へと移動してしまった。  激しく息切れはするが、運良く持病は発症しなかった。  顔が熱い。鏡で確認しなくても赤面しているのは分かりきっている。  弥生も直ぐに横断歩道を走って渡ろうとしたが、残念な事に信号は完全に赤へと変わってしまった。  沢山の自動車に阻まれて、糢袈が今、どんな表情で弥生を見ているのか分からない。  信号が再び青になったら、横断歩道のド真ん中で、皆の注目を浴びながらキスしちゃおうか。  信号を待っているほんの数分間ですら焦れったくて、弥生はその場で軽く足踏みをしている。  車が邪魔だね。  赤信号でも、今すぐそっちに渡りたい。  そうだよ。今、渡っちゃおう。  弥生がそう決めて足を前に踏み出したその直後、信号がちょうど青に変わった。  どうもありがとう。  そうして、このターンだけ青の時間を長くして下さい。  赤に変わるその前に、最も愛しい恋人が幸せ一杯に笑うその顔を、赤信号よりも赤く染めて、もっと最高の笑顔にしてみせるから。  ♚ ━━━ Fin ━━━ ♚       
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