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時として人間は、好感度の高い人物よりも、嫌悪感を持つ人物のほうが強く印象的に残ったりもする。
賢登は自分自身の目の前に立つ、険しい表情をしてこちらを見据える憎き上司を負けじと睨み返した。
「課長さんは、いつでも何処でも俺に説教しないと気がすまないんですか?」
会社の親睦会で弥生や晃輔と一緒に楽しく談笑していたのに、康朔から「あまり羽目を外しすぎて周りの人達に迷惑かけるなよ」と嫌味を言われた賢登は激しく気分を害した。
康朔も出来る事ならこんな気疲れするだけの親睦会など参加したくはない。
けれども立場上、仕方なく参加しているだけであり、こんな恒例行事などなくなってほしいと思っている。
「こんな人目の付かないところで一人寂しくいるなんて、舘原課長は部下からの人望がないんですね」
「俺が一緒にいたら他の皆が気を使うだろう。楽しく飲み食いしているのに邪魔してしまっては申し訳ないからな」
賢登からの挑発的な物言いに、康朔は少しも動じる事なく受け答える。それに賢登から言われた内容に反論しないのは、少なからず康朔も同調出来てしまえるからだ。
「俺はアンタのそういう遠回しな気遣いと優しさが、虫酸が走るほどに大っ嫌いなんだ!!」
康朔は誰よりも人一倍、部下を大切に思い、面倒見が良く、部下の体調管理にも気を配っている。あれもこれもと部下に仕事を押し付けるのではなく、一人で仕事を背負い込む康朔の努力を賢登は知っていた。
それをけっして上司や部下の前ではアピールしたりせず、頑固で控えめな康朔に賢登も突っ掛かる事しか出来なくなってしまった。
賢登は康朔に助けてもらった恩を未だに返せていない現状を歯痒く思っているのだ。
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