第1章

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第1章

          七階建てマンションの四階の部屋は陽当たりや風通しが良好で、ベランダから眺める景色も良い。  最寄り駅からは少し遠いが、近くにはコンビニや割と大きなスーパーマーケットがあり利便性もそんなに悪くない。  電気ケトルから沸騰した事を知らせるアラームが鳴った。  洗濯物を干し終えた永倉(ながくら)弥生(やよい)は食器棚から真新しい色違いのお揃いマグカップを取り出した。  いつもなら、平日のこの時間帯は出勤の準備や身支度やらで慌ただしくしているのだが、今朝は何とものんびり出来る優雅な朝だ。  弥生は昨日と今日で有給を二日分使った。  愛する恋人と同棲を始めてから迎える初めての朝だ。  この有給は恋人とゆっくり有意義に過ごす為のものだ。  最初、二日連続で有給休暇の申請をしたら、若干、顔を(しか)めた上司は「せめて一日だけにしてくれないか?」と打診しようとしたのだが、日頃の弥生の仕事振りを高く評価していた事と、今はそこまで繁忙期ではない事もあり、たまには骨休めも必要だという意味も込めて有給を二日連続で使う事を快く許可した。  弥生は平日五日勤務の土曜日、日曜日休みだが、恋人は土曜日、日曜日は出勤で平日の火曜日、水曜日の二日間がお休みだ。  同じ完全週休二日制でも休日の合わない二人は頻繁に会う事が叶わず、時折、こんなふうにどちらかが仕事を休む事で都合を合わせていた。  だけどこれからは、毎朝毎晩、お互いの顔を合わせる事が出来て一緒にいられるのだから、もうそんな寂しい思いをしなくてすむのだ。  珈琲と紅茶、弥生の恋人はどちらが飲みたいと言うだろうか。  朝食はハムエッグを添えたトーストにしようか。それとも日本人らしく、ご飯に味噌汁、焼き魚といったシンプルな和食にしようか。  何も焦る必要はない。時間はたっぷりあるのだから。  恋人が目を醒ましてから、二人でゆっくり朝食のメニューを決めれば良い。       
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