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破瓜の儀式
状況がよく、分からなかった。
17歳の誕生日。父と兄に盛大に祝われて、とても嬉しかった記憶はある。
その後のことだ。お風呂だよと兄に言われ、脱衣場に向かうと何故か下男数人がいて、狼狽しているうちにさっさと脱がされ、身体中─特に震えて縮こまっている中心部や後ろの穴を丁寧に洗われ、こんな状況だというのに触られたせいで勃ちかけていることに気づき、慌てて隠したのも束の間、すぐに身体中拭われ、肌触りの良い浴衣を着させられ、大広間の中心に置かれていた布団のところに正座をさせられ、下男数人はさっさと出ていってしまった。
やっと、なんで、とだけは言えたのだが、その問いに答えてくれる者はいなく、静かな空間へと溶け込んでいった。
左右にゆうに届かない蝋燭台に灯されている蝋燭は若干薄暗い部屋を照らすだけで、奥にある丸い窓から照らされている月明かりと合わせて心もとない。
何も事情を聞かされず、いきなり知らない部屋に連れて行かれたのもあり、孤独を覚え、そもそもいる意味がないのではと思い至り、この部屋を出ようと立ち上がった瞬間。
入ってきた障子を下男が恭しく開き、そして入ってきたのは。
この桜屋敷の長男で、1歳年上の兄・桜屋敷碧人が同じような浴衣を着て、後ろに数人先ほどこの部屋に無理やり連れてきた下男を連れて、こちらに歩み寄る。
見知った、しかも大好きな兄が現れたのもあって、目尻を涙を浮かべながらも縋りついた。
「兄さん! 僕、お風呂に入ろうと思ったら、なんでか脱衣場に兄さんの後ろにいる人達──」
兄の碧人は頭1つ分背が高い。だから、自然と見上げる形になり、必死になってさっきの出来事を伝えていたら、ごく自然に碧人は両頬に骨ばった細くて長い手を添えてきたかと思うと、身を屈めて、顔を、唇を、近づけて。
形の良い色鮮やかな唇を重ねる。
言葉も出せず、呆然と薄く口を開けたまま兄を見つめていると、碧人は少しの間触れた後、名残惜しそうに離れ、さっきよりも笑みを深め、どことなく頬を赤くする。
こんな突然の出来事でも、兄の熱っぽい表情は艶めかしく綺麗だなと思ってしまう。
いや、そんなことを思っている場合じゃない。
「·····どうして」
辛うじて言えた疑問を口にする。
すると、碧人はこちらにまた頬を添え、慈しむように撫でながら言った。
「やっと愛しの葵と交わることができると思うと、つい、ね·····。本当に嬉しくて仕方ないよ」
交わる?
それは一体どういう。
ほぼ理解出来なくてまた疑問を口にしようとする前に、兄にまた唇を重ねられる。
さっきと違うのは、唇を割られ、兄の舌が容赦なく入り込み、舌を絡め取られた。
執拗に絡まれ、気づけば息が上がり、口の僅かな隙間でどうにか息をするのがやっとで、碧人の激しい攻めには抗えず、されるがままになっていた。
酸素が行き届かなくなったのか、頭がぼんやりとし、今自分が何をされているのか分からなくなってきた頃、やっと兄が解放してくれた。
激しく運動したかのように完全に息が切れ、 肩で息をし、どうにか立っていられるぐらい足に力が入らなくなっていた。
まるで、熱を出したような。
顔が熱いのを感じ、潤んだ目で兄を見てると、口元を緩めた兄が自分の方へ抱き寄せたかと思うと、葵人の浴衣の裾を捲る。
一瞬何をされているのか分からなかったが、咄嗟に、「やめてっ」と手を退けようとした。
が、一拍遅く、碧人はあろうことか葵人の秘部をまさぐる。
何も隠されておらず直に触られたのもあって、自分の意思とは裏腹に嬌声を上げる。
自分でも初めて聞いた声に驚きと恥ずかしさで思わず口元を両手で押さえる。
そんな弟の反応が面白かったのか、碧人は肩を揺らす。
「熱いキスをしただけでこんなにもここを濡らしてしまうだなんて、初心なんだね。それとも、僕のことを求めているの?」
「そ、そんなことを·····っ、あっ、やっ!」
「僕は嬉しいよ。僕のこと、大好きだって昔から知っていたけど、ここまでだなんて」
「·····ぁ·····っ! や、やめて、い、き·····」
このままでは実の兄にみっともない姿を見せてしまう。
兄の肩に必死になって掴みながら、懇願しようとした時。
ぱたりと手が止まる。
こちらの思いが通じたのだろうか。
さすがの兄も弟の中心部を慰めるのは引けたのかもしれない。
けれども、あともう少しのところだった為、もどかしくて仕方ない。
無意識に膝を擦り合わせる葵人の耳に兄はこう囁いた。
「──さぁ、儀式を始めよう」
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