第六章

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金子は、予想通りに神田美夜に騙されたと被害者面をして話しているのを何度か目にしていた。 休憩室でも食堂でも何度もよく似た話をしてあえて噂を流しているのは明白だった。 「俺が、金を返してくれって勇気をだして彼女に言ったらねあの写真の男がいてさ。」 「えー。殴られたりはしなかった?」 心配そうに婚約者になった一条が心配そうに金子に聞くと金子は、 「いや、俺もね自分で金を管理していなかったのが悪いんだけどかなり貯金していた口座を彼女が持っていて結婚資金くらいになるはずなんだ。それに君に借りている金も返したいしね。でも彼女は、悪賢くて自分名義の口座に移し替えていたんだ。」 そんな事実は無いが堂々と嘘をつく金子は、自分は勇気のある男で全ては悪女扱いの美夜が悪いという話をしていた。 俺が近くにいても当然の事ながら「写真の男」と同一人物だとは気が付いていない。 馬鹿な男だが嘘はそれなりに話の筋道は通っていた。 「じゃ。今貴方の預金は、彼女の名義の口座にあるって事なのね。父に相談してみようかしら?」 いくら頭取でも他人名義の口座をどうこうする事はできないはずだが、しかし行員のミスを装い何かする可能性は無くはない。 「いやそんなそこまではいいよ。」 「そう?」 俺は、勘でこの一条は金子の為に何かすると確信した。 金子は、上手く彼女の性格を利用していて選民意識が高い彼女のようなタイプは、普通では出来ない事をやって交際相手に誇示したがるのだ。 二人は、公に婚約したと上司にも報告済で堂々と手を繋ぎ休憩室をでていく。俺も数分後に飲んでいたコーヒーのカップをゴミ箱に捨てて自分の席に戻ろうとした時に声をかけられた。 「君もあの二人が気になるのか?」 声をかけてきたのは宇佐美 英明。彼は、俺と同じで彼らの会話を聞いていたようだった。 「なんの事でしょう。中間決算で入力に疲れて休憩していただけですよ。たしかに話をしていた二人はいましたがあの二人が何か?」 宇佐美は「あれは、金子と一条だが君は興味がないようだね。」と言うから、 「他人の事に興味はないですね。」 「そうか。最近よく君を見るから彼らが気になるのかと思っていたよ。」 「偶然ですよ。じゃあ行きますね。」 全くこの宇佐美と言う男は何を考えているのか今だに掴めない。 何かを企んでいるのは確かだが・・金子とはどちらかと言うと犬猿の仲だけに金子に有利に働く人物ではない。 ただ、神田美夜を気に入っていると言っていたが、今だに動きはないのと金子の行動を監視している様にも見える。 全容が見えそうで見えてこない事に内心イライラするが焦りは禁物だと思っている。
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