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彼女は俺の事を知らないだろう、もし偶然出会っていても普段の俺は、ここにいる俺とまったく正反対のように違うから気が付かないだろうな。
「このシャンパン美味しいですね。」
そう言いながらグラスを空ける彼女の空になったグラスにシャンパンを注ぎながら、何故あんな大金を一晩で使おうと思ったのかを聞いた。
アルコールの勢いも手伝って彼女は、少しずつだけど話し出す。
「この前まで彼は、同僚で一緒に働いていて、ヘッドハンティングされたとかで隣の会社の営業として転職したの。最初はね課長としての話だったみたいだけど、試用期間ってのかな期限までに目標に達せなくて主任にも
なれなかったらしいの。」
それは、その男がそれだけのものだったんだろう?そう思いながら俺は話を聞き出す。
「今回ね、私が主任になったことが気に入らなかったって言いだして可愛げがないって。それに威圧的だと言われて彼氏が成績に困ってるんだから代わりに仕事手伝うとかお客様を紹介するとかしなかった事を責められたわ。」
恥しい男だなと俺は思うが、女性がしかも彼女が出世して自分は出世確実だと思って転職したらそうでは無かったって話か。
「でもそれ君のせいではないだろう?彼の実力の問題だ。」
「彼は別れてくれって。二人で結婚資金として貯金していたお金にプラスして慰謝料だって300万おしつけられたの。」
「それで美夜は、彼をまだ好きなのか?」
彼女はクビを横に振って自嘲気味に笑いながら言った。
「彼が付き合おうと言ったから付き合っていたけど、もともと私は恋愛が解らないの。だからいけなかったのかな?」
恋愛が解らないという彼女は悲しそうに笑う。
「解らない?」
「うん。小説のように彼が全てにはなれなかったのよ。」
「小説か・・君は恋愛を知らないだけだと思うけどな。」
「そうかもね。」
そう言いながら彼女はグラスを空にした。
「恋愛を知りたいと思うならここに数日通ってみたらいい。」
俺がそう言うと彼女は目を丸くする。
「俺が教えてやろうか?」
「恋愛って教えてもらえるものなの?」
彼女はクスクスと笑う。
「正しくは男を知れってことだよ。」
「ああ~それならいいかもね。」
明日も来ると彼女は約束してから帰るといって300万は使わずにカードで会計を済ませた。
ただそれだけの行為だけど彼女は想像以上に「高潔な女」なのかも知れないと思う。
俺は、少し恥ずかしがる彼女の肩を抱いて店の出口まで送り呼んでおいたタクシーに乗せた。
「また明日な。」
「ええ。」
俺は彼女の手を引き額にキスをして彼女のマンションまでと運転手に告げた。
ボーっとした顔の彼女に手を振りタクシーのドアを閉める。
後ろから後輩が「彼女明日も来ますかね。」というから「俺を誰だと思っているんだ。」と言ってやった。
彼女は明日も来るそう俺は確信していたホスト時代の頃とはまた違うなんとも言えない確信があった。
「彼女は明日また来るよ。」
俺は後輩にもう一度そう言うと明日の出勤の為にも急いでマンションへ帰る事にした。
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