第六章

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今日は、真っ直ぐマンションに帰ると美夜から連絡があったから俺は「今日はそっちには行けない。」とだけ短い文章を打つと、彼女からは「承知しました。気をつけてくださいね。」と返信があった。 俺は、一度マンションに帰り服装だけ変える事にした。 「こうなったら変装だな・・。」 髪を後ろに流して縁なしの眼鏡をかけ黒のコンタクトは、そのままでブランド物のスーツでもビジネスマンが好む仕立てのスーツに着替える。ネクタイは、ダークな色にして時計もそれなりの物をつける。 親父と会う時は、会社でいる俺でもホストのキョウでも本当の俺でもない親父の息子としての自分を作る。 白い国産車に乗り親父との待ち合わせの場所に行く事にする。 料亭の車寄せに停めて係の者に鍵を手渡し心付けを渡す。 「鏡様こちらでございます。」 と部屋に通されるとすでに親父がそこにいた。 「何今日はパパに頼み事があるようだけど?」 嬉しそうに鏡 恭一郎はこの上なく上機嫌だった。 「ああ、正しくは聞きたい事だな。」 まあ座りなさいと言うから素直に従うと・・ 「恭介が僕の言う事を素直に聞いてくれるなんて!どうしたの?」 「なんだよ!立ってるのもおかしいから座っただけだ。」 「素直じゃないんだから~。」 あーこのテンションに疲れるから会いたくないんだと、俺が考えているなんて思っていない親父は、テンションそのままに「結婚したいなら僕は反対はしないよ。」なんて言い出すから飲んでいたノンアルビールを吹き出しそうになった。 「なんだよそれは。違う。」 「だって恭介。最近お泊りか帰りが遅いらしいから。」 誰から聞いたんだよ!と聞いたら本題に入るまで長くなりそうだ。 「恋人の部屋に行ってるだけだ。まだ結婚はない。」 隠す気もないから白状すると、気持ち悪いほど嬉しそうな顔をする。 「それより、金子は親父が試験で具体的に何をさせたんだ?」 「なんで?まあ少し難しいお題だったんだけど彼女だったらクリアーできたかも知れなかったんだ。」 鏡ホールディングスが狙っていたのは、外資系の子会社への営業だったが金子は、相手に認めてもらえずに失敗に終わった。 「彼女って?」 「神田美夜さん。あの子なら成功させたかもしれないんだけどね~。金子は、企画力もだけど人間力が無いんだろうね。相手の役員が女性だからとなめてかかったんだろうな。」 「そんなに彼女は凄いのか?」 「企画の目線が相手に合わせて自在にその場で変えて提案する劇場型のプレゼンというかな~頭の回転が速い子なんだと思う。で金子の話だったよね。」 「ああ、噂は噂だけどかなり金使いが荒いらしいね。」 「んっ?もしかして恋人は神田美夜じゃないよね?」 「なんだよ反対しないんじゃないのか?」 俺は肯定も否定もしなかったが 「恭介!はやく結婚したほうがいい。」 なんだよ反対するんじゃなくてそっちか。 「でも親父、彼女は俺が鏡恭介だって知らないんだ。増田恭介の名前もまだ言ってない。ただのホストを辞めたキョウとして付き合ってるだけだ。」 親父は、難しい顔をしているが今は、言う必要はないだろうと俺は思っている。 「はやく本当の事を言わないとダメだと思うけどな。」 俺も早く言いたい。そうすれば一緒に暮らす事も出来るけど正体を隠している今は、一緒にいれるのは週末だけになりそうだ。 「俺が知りたいのは、金子と宇佐美の事なんだ。親父は宇佐美が何者かしっているのか?」 「恭介も知ってるんだね。知ってるよ・・それに荒井産業の株の件だろう?」 親父は、ある程度の事は知っているようだが宇佐美が個人的に株を購入している事を咎めるのも後で変な話になるから把握だけしていると言う。
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