第六章

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「宇佐美君は、彼なりに色々考えて動いているみたいなんだよ。やり方は、あまり良いとは言わないけど。荒井産業の社長は把握して いるから僕が口を出さない方がいいんだ。」 親父は、何かをすでに知っているみたいだが今は俺にも話すつもりはないらしい。 「金子を陥れたのは宇佐美じゃないのか?」 「そうだよ。宇佐美の私怨だよ。」 これについても親父は知っているみたいだが話すつもりはない・・。 「それより、美夜ちゃんだよ。金子が何やら変な事しそうだな、噂は僕も聞いているけど美夜ちゃんは、そんなタイプの子じゃない。」 人を見る目は確かなんだなと思うが、なのに何故親父は女を見る目は無いのだろうか。 「美夜が金子に金を渡していたんだ。一度返金してきた金を回収しにきたから俺が強引に送金してやったよ。」 俺が、あの時強引に自分の口座から送金したのは送金すれば履歴が残るからだ。 「恭介、本当に何かあった時はちゃんと美夜ちゃんにだけは真実を言いなさい。誤解されるとお前が困るんだぞ。」 「ああ、近いうちに話すよ。」 その近いうちというのがそう遠くない所で彼女に知られる事になるとは思っていなかった。 俺が、鏡恭介であり増田恭介だという事を何故こんな事になったかという話を彼女に言わなければならない。 それを話すのには俺の過去から彼女に説明しなければいけなくなるだろう。 あの女の話までしないといけないと思うと気が重くなる。 「恭介、まだママ・・お母さんを許せないのか?」 「ああ、会いたくはない。」 俺がそう言って拒絶すると複雑な顔をしていたが、俺の立場からすると当然だと俺は思う。 10歳になるまでその親父の存在すら知らなかったのは、あの女のせいだ自分で子供を育てもしないのに産んだあの女のせいだ。 複雑な顔をしている親父を置いて俺は料亭を出た。
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