第二章

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第二章

 「俺が教えてやる。」 そんな俺様な事を初対面から言われたのは初めての経験で帰りに額にキスをあんなにスマートにしてくるなんて思ってもいなかった。 額なのに唇にキスよりトキメクのは何故なの? そもそも、ホストクラブに行こうと思ってはいなかったが、顧客と最後に会った場所から駅に向かっているつもりだったのに繁華街 に迷い込んでいたみたいだった。 自分自身が思っている以上に彼からの別れの切り出し方と内容が自分の思考を支配しているのだろう。 「お姉さん遊んでいかない?」なんて言葉を繰り返しながら誘ってくるホストを振り切れずに言われるままに店に入ったら 見たことがないキラキラした世界で驚いた。 誘ってきたホストは、自分より若い子で男というより青年って感じ、茶色い髪が子犬みたいで可愛かったがタイプかと言えばそうでも なく、男を感じはしなかったまるで出会った頃の元彼があんな感じだった。 人当たりが良くて今思えば人目につく時は親切な人だったし何度断っても「付き合って欲しい」と言うような人だった。芝居めいた態度にも慣れてしまった時に根負けして付き合って結婚の話も彼からだった。 「300万慰謝料って言ったけど・・冷静に考えたら私の貯金だよね。」 毎月5万とボーナスを合わせて結婚資金で貯金していたから3年間貯金していたからちょうど300万くらいにはなるか・・。 付き合ってすぐに始めた共同の貯金は彼が管理していていくらあるのか知らなかった。 特に趣味もなく営業成績が良かったから普通のOLよりもちろん給料も良いだから年100万の貯金は結婚資金だと思えばなんでもなかった。 「少し広いマンションへ引っ越しするのもいいかな?」 住み慣れてはいるけど年収を考えたら自分の生活は質素かもしれない。 仕事に必要な洋服や靴にはそれなりにお金をかけるが住居や食事には拘る性格ではない。 席について少ししてから隣に座ったキョウというホストは同じ年頃か少し上なのか落ち着いていた。 彼から押し付けられた(実際は自分が貯めた)お金をここで散財してもいいかと思うくらいに見た事もないくらい綺麗な男性だった。 黒髪にブルーの瞳で整った顔とスタイル。 着ているスーツも靴も時計も彼のセンスの良さがわかる一級品を身につけていた。 そんな彼がホストなのに一晩でお金を使い切るのでなく数日通えなんて言ってきた。 「恋愛がわからない」というと彼は「俺が教えてやる。」なんて言うから興味本位かも知れないけど少し通ってみてもいいかと思ってしまう。 「私意外と病んでるよね。」 今日だけで数十万は使ったというのに別にもったいないと思わない思わせないのだから彼はたいしたものだと思う。 シャワーを浴びて部屋着に着替えて時計を見ると3時になっていたけど仮眠をとってまた定時に出勤する。 いつもの様に朝からシャワーを浴びて化粧をし髪をアップにしてスーツを華美にはならずに人を不愉快にさせない服装を心がけている。 彼から受け取った300万はとりあえず銀行に預ける事にしてバックの中に入れたままだ。 別にそのバックを盗られたとしてもどうでもいいと思う。 カツカツとヒールの音を響かせてマンションのホールを背筋を伸ばして歩く。 どんな事があっても背筋を伸ばせという母の教え通りに今日も駅に向かうことにした。 会社に着くと「おはよう」と挨拶をしながら自分のディスクに向かう。 何も変わらない日常が始まり今日も予定通りにアポを片付けていると 「主任は鉄の心臓の持ち主だな。」 「ああ、金子さんが昨日振ったらしいけどな。」 「聞いた聞いた。でも変わらないよな。」 既に昨日の事が噂になっているどう考えたって金下本人が流した話だろか?それともお金を返そうと追いかけて振り払われた所を見られていたのかも知れないが、別に他人が別れようがどうでもいいだろうにと思いながら仕事をする。 企画営業の仕事は、結果がすべてだからこそ準備が必要で手を抜けば結果に直結する仕事だと思うから顧客の情報を頭に入れるのは当たり前仕事の時はプライベートは忘れてやるべき事に集中する。 誰に何を言われてもまかされた仕事は結果を出す。 男であれ女であれそれは当たり前の事だと思うのだが、どうも最近はそんな自分の行動が男性社員の反感を買っているとは夢にも思わなかった。
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