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プロローグ
普段かけている黒縁眼鏡を外してブルーのカラーコンタクトを入れあえてボサボサにしている髪をセットする。
ゼニアのブラックスーツに薄いピンクのワイシャツにネクタイを締め靴はフェラガモの靴が好きだ。
時計は最近はスケルトンのブルガリの時計が気に入っているカフスと揃いのネクタイピンで完全武装して久しぶりに店に出る事になった。
「「「「おはようございます。」」」
「おはよう」
夜でもこの街では「おはよう」だ。
半年以上ぶりの店は不景気だと世の中が騒いでいる割に繁盛している。
店の名前は「ミラージュ」今日も日頃の疲れや憂さを晴らす為に淑女達が派手に遊んでいるホストクラブだ。
どんな仕事であれ自分で稼いで遊んでいるのだから俺は良いと思っているしこの店は無理な売り上げの為の女性への追い込みは基本的に禁止している。
「キョウさんすいません。ヘルプお願いして。」
この店のナンバー2の後輩が挨拶に来た。
「ああ、いいよ。ヨルが数日休みなんだろう?」
ヨルはこの店のオーナーの一人でこの店のナンバー1の男だ。
「ええ、例の方との賭けに負けて旅行です。」
例の方というのはヨルの奥さんだ、商売柄あまり大きな声では言えないがヨルは愛妻家だったりする。
「あ~なんかそんな事言ってたな。」
ナンバーワンが抜ければかなり売り上げが落ちるからそれを補う為にヘルプに来たというわけだ。
俺がこの店のオーナーの一人でこの店のナンバーワンだった過去はかなり前の事になる。
「キョウ!なんで?」
古いこの店の常連の女性が驚いた顔をするくらい久しぶりだ。
「ああ~久しぶり。ヨルがお休みで引っ張り出されたんだ。」
彼女はだったら記念にとシャンパンを入れてくれる。
「ホント今日は私ラッキーかも。」
キャッキャ喜んでくれて「ボトル入れて~。」と高いボトルを入れてくれたりする。
「有難う~ヨルに叱られなくてすむ。」
「いいのいいの!飲もうよ。」
程よく騒ぎながら彼女は上手に遊んでくれる上客の一人だった。
「キョウは、いつ見ても綺麗な顔してるわよね~眼福だわ。」
「そうですかね~最近は地味って言われる。」
「うそーその人目が悪いんじゃない?」
俺が店に出ている事をキャストが客達に宣伝したのか次から次に昔の客やら新規の興味本位の客がやってくる。
「あの人でしょ?キョウって。有名な元ナンバーワン?」
「そうだよ~キョウさんはヨルさんがお休みだからヘルプで来てくれてるんだ。」
キャストがそう言うとおそらく夜の仕事をしている女性だろう。指名してくれて、そしてそこでもボトルが入る。
何回もその繰り返しで売り上げは500万を超えた。もう良いだろうと、店を出ようとした時、見た事のある女性が新人にキャッチされて入店してきた。
時間は22時過ぎ。
「ホストクラブ初めて?」
「そうね・・初めてだよ。」
華美ではない上品なスーツの着こなしにキッチリアップにした髪。
あの子は・・・。
隣の会社と勤務している会社の間に公園とまではいかないが芝生の広場がある。
その場所で見たあの女性だと俺は気づいた。
「あの子の席につけて。」
スタッフにそう指示すると売り上げは後輩に入るようにしてあの女性の席につく事にした。
ホストクラブで飲むような子ではない事は確かだ。
俺は彼女を知っている神田美夜。
真面目で荒井産業の不動産事業部営業課始まって以来の女性主任。
俺は彼女の隣に「キョウですお隣よろしいでしょうか?」と営業スマイルで挨拶をして席についた。
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