幸福編

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 沼口は部下と違ってとても礼儀正しい二人を見ながら波那に、ホントに兄弟か? と訊ねる。 「うん、事情があって長い間別々暮らしてたんだ」 「そっか、雑な話し方を想像してたからな」 「あの、俺そんなに雑いですか?」  畠中はボックスの中を気にしつつも、上司の言い分に若干不服そうに顔を上げる。 「雑だろ、小田原さんに対する話し方は目に余るぞ。あの人ああ見えて結構気難しいのによく怒られないよな、お前」 「そうなんですか? 俺てっきり緩い人なのかと……」  彼は沼口と波那を交互に見る。 「気難しいと言うか人見知りは凄く激しいよ。ただ感情で好き嫌いを分ける様な事はなさらないから気付いてない人も多いと思う」 「結構居るんだよ、ナメてかかって地雷踏む奴が。まぁでもご家族との交流があるんなら大丈夫だと思うけど、三兄弟の勉強見てやってんだろ?」 「はい、月に一度。最近は三兄弟が家に来る事も」 「何だ、相当信頼されてるじゃないか」  沼口と波那は安心した様に頷き合い、畠中は再びボックスの中を覗いている。最初は何の音沙汰も無かったボックスから微かに音が聞こえてきて、中から子犬がおどおどした様子で顔を出してきた。 「珍しい色ですね」  その子犬の姿形はゴールデンレトリバーなのだが、シベリアンハスキーの様な模様で毛の色が青みがかっている。 「あぁ、レトリバーとハスキーの雑種なんだ。畠中ご希望のメスはその子だけで、早い者勝ちで兄貴から頂いてきた」
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