幸福編

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 畠中は手の中で微かに震えている子犬を優しく撫でてやり、伽月も可愛いねと興味を示している。 「でかくなるからそれは覚悟しとけよ」 「はい、波那でも散歩出来るよう躾しますんで」 「大丈夫なの? お兄ちゃん」  伽月は心配そうに兄の顔を見る。 「大丈夫だよ、大型犬の方が従順なんだ」 「僕も出来る時はお手伝いするね」 「その時は頼むよ」  畠中は弟の背中をぽんぽんと叩き、子犬を波那にも見せに行く。 「名前、俺が付けて良いか?」 「もう考えてあるんだね、何て名前?」  波那は畠中から受け取っている子犬を抱いて嬉しそうに頭を撫でる。 「"ミソラ″。この名前が付けたくて沼口さんにはメス犬をお願いしてたんだ」 「良い名前だと思うよ、毛の色にも合ってるし」  波那は子犬に向かって″ミソラ"、と呼びながら首筋を指で撫でると、彼女は目を閉じて喉を鳴らしている。今度は伽月が″ミソラ″の名を呼ぶと、垂れている耳を微かに持ち上げて早くも自身の名前を認識した様だ。 「気に入ったみたいだよ、名前」 「良かった」  畠中はホッとした笑顔を見せ、波那に抱かれている"ミソラ″の頭を撫でた。こうして小泉家の仲間入りを果たした青毛の子犬は、以後大切に育てられる。 ≪終≫
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