婚活編

4/31
52人が本棚に入れています
本棚に追加
/228ページ
 「へぇ、超料理上手な方なんですね」  この時点で沼口は総合職の女性社員だと思い込み、まだ見ぬ『波那ちゃん』に恋をしてしまう。きっと家庭的で可愛い方なんだろうな。添えてあったメッセージカードのせいで彼の勝手な妄想はどんどんと膨らんでおり、本社勤務が楽しくなりそうだ。と一人ほくそ笑んでいた。奇しくもこの日は金曜日、沼口の誤解は週明けの月曜日まで持ち越される形となる。  外回り先からそのまま直帰した波那は、お弁当箱を洗うためすぐ台所に入る。隣のリビングでは、普段は職場の独身寮で生活をしている二歳年上の兄小泉時生(コイズミトキオ)が帰ってきて食事を始めており、向かいに座っている波那の同級生嵯峨丞尉(サガジョウイ)と共に酒を酌み交わしている。 「ただいま、もう飲んでるの?」  身体的事情で酒が飲めない波那は、二人が早くもほろ酔いなのを見て肩をすくめる。 「お帰り、今日は早いな」 「うん、外回り先からそのまま帰ってきたから」  手際よく洗い物を終えると、やかんで湯を沸かし始める。 「とき兄ちゃん、それ全部丞尉に作らせたの?」 「その分もあるけど全部じゃないぞ」  それは買ってきた。と並べられている料理をいくつか指して言った。 「ゴメンね丞尉、家でまでこんな事させちゃって」  波那は来客である同級生に詫びたが、彼は料理好きなので全く気にしていない様だ。実際自宅でも父と男四人兄弟の五人家族で、嵯峨家の家事はほぼ一手に引き受けている。
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!