52人が本棚に入れています
本棚に追加
/228ページ
「そう、でもこれだけあれば今日は充分でしょ?」
うん。麗未は元居た所に戻って再びビールを飲み始める。買い出しに行かずに済んだ波那と丞尉もリビングに戻り、早苗も交えての夕食は波那の婚活話をネタに楽しいひとときとなった。
週が明けた月曜日、ようやく『波那ちゃん』に会える、と異常なほどの期待を膨らませている沼口は、焼き菓子のお礼を口実に彼女? に近付こうとしていた。チャンスは就業前に早くも訪れ、席ごとに一輪の花が生けられている事に気付いて、この日も隣の席に居る男性社員に声を掛けた。
「この花はどなたが?」
「きっと『波那ちゃん』ですよ。彼社内では有名な乙メンなんです」
彼?沼口は我が耳を疑った。
「乙メン、なんですか……?」
「えぇ。最初はキモい人なのかと思ってましたが、慣れるとむしろ癒されますよ」
すると少し離れた所を歩いている男性社員に向けて、おはよう波那ちゃんと声を掛けた。
おはようございます。彼『波那ちゃん』は可愛らしい笑顔を見せて挨拶を返し、女性社員グループのデスクに落ち着いた。確かに色白で細身の小柄な男性で、見様によっては女性にも見えなくもない。
男だったの? まぁ可愛いけどさぁ……膨らみすぎた妄想のせいで彼のショックは凄まじく、翌日から三日間疲労性の高熱で寝込んでしまう。ところがここの社員たちは、ハードスケジュールからの疲労ではと思っていて、まさか波那を女性と間違えていたと考える者など誰も居なかった。
最初のコメントを投稿しよう!