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四日振りに出勤した沼口は、転勤早々仕事に穴を開けてしまった事を課長に謝罪した。たまにはそう言う事もあるさ。とあっさり許してもらい、ホッとしてデスクに戻ると、『波那ちゃん』が、おはようございます。と声を掛けてきた。しかし勘違いで女性と思い込んだ気まずさから、つい視線を逸らしてしまう。
「あぁ……おはようございます」
「お体、もう大丈夫ですか?」
やましい事など何も無いのに、彼と距離を置き、何か用?と素っ気ない口の聞き方をする。
「いえ、きちんとご挨拶をしてなかったので……小泉波那です、よろしくお願いします」
「ぬ、沼口昇です。この前の焼き菓子、美味しく頂きました……」
先日食べた焼き菓子の礼を言うと彼は、良かった。と笑顔を見せる。これが中途半端に可愛くてやりづらい。そう思うと一人で気まずくなって、宜しく。とだけ返すと仕事に取り掛かる。『波那ちゃん』はそんな態度を気にする事無く、一礼して自身のデスクに戻っていった。
それからあっと言う間に十日ほどが経ったのだが、沼口はまだ勘違いモードから脱却出来ていなかった。その日の午後、波那がタブレットを持って彼のデスクへやって来る。
「あの、来週末の会議の資料が出来上がりましたのでご確認頂きたいのですが」
へ? 男性の波那が事務仕事をしていると思わず、何となく顔を見つめてしまう。
「君、もしかして一般職?」
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