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「なぜに、我々の名を知っているのだ? 争いは避けたい。我々が、貴様に何をしたのか教えてくれぬか?」
「珠羅さん、そいつは我の天敵ですニャン! 我は仁! 寛の息子ニャン! 姫を人質にしたって何の解決にならない事くらいわかれニャン!」
珠羅の質問に答えさせず、仁が何かを思い出したかのようにガタイのいい男の前にしゃしゃり出た。
「仁……というか、天敵って何の事だ?」
「とぼけるつもりニャン? 日本で何があったか話したら思い出すのかニャン?」
「仁……、お前一人では無茶だぞ!」
琉宇が、二人の間に割ってくる。
「ちょっと待て。日本から来たのか?」
愛憐を羽交い締めにしたまま、ガタイのいい男は仁に聞いている。
「そうニャン。我を捨て去った元人間め! 姿を変えてたって、お前の事はわかるニャン!」
小さな猫剣士の言う事が本当かどうか、今の段階ではわからないが、追い込まれて怖い思いをした事は、仁の怒りが混じった話し方で察しがつく。
「捨て去った? ……あれは、事情が事情だったから仕方なく…まだ生きているのか。良い飼い主見つかって良かっ…フゴッ」
「今のはその時の、ニャン! 姫を返せニャン! 命の恩人だからニャン!」
いつの間にか仁は、剣を鞘におさめるなり猫パンチをお見舞いしていた。
「元の姿をバラされたのは想定外だが、この女を人質する意味はありそうだな。珠羅、話がそれたが俺は、あちらの世界とこちらの世界を行き来するうちに、姿を何度も変えているから気付かないのも無理はないだろ。異様なまでのもふもふ好きなお前が、唯一苦手な生き物の姿でいた時は、危うくお前の兄貴に亡き者にされそうになったんだ!」
「何を伝えたいのか、我にはわからぬ。あちらの世界とは? まずはそれを説明してもらおう。仁様、ここからは我に相手をさせてください。話し合いの余地がありそうだ」
珠羅に言われて仁はとりあえず、琉宇の傍に戻ったのだが、シャーシャーと威嚇する事は忘れていない。
「ここにいる女がいた世界から来たんだ。今は、獣の神様によって狼男にされて今に至るが、その前は鼠にされて後宮に運悪く入り込んだところ、蛇羅によって仕掛けられたワナにひっかかり万事休すというところで、世話係らしき犬耳の男に後宮の外に逃がしてもらえたというわけ」
興奮が少しおさまったのか愛憐を羽交い締めにしている腕の力が弱まり、愛憐がここぞとばかりに腕を払いのけて珠羅の元へ駆けつけたかったのだが、腰が抜けてしまいへたり込んでしまった。
「愛憐、大丈夫か?」
珠羅は、愛憐の身体をひょいとお姫様抱っこした。
「なんとか大丈夫です。私が余計な事をしたばかりに、こんな事になってしまってすみません……」
「いや、貴女が無事でよかった。まだ話し合いの最中だったな。後宮に迷い込んだ鼠の事は、兄上から聞いているが少し訂正させてくれ。兄上は病弱でほとんど部屋から出る事がない生活を送っている身だ。だから、兄上がそなたを亡き者にするのは不可能かと」
珠羅は、静養中である兄について説明を一通りした。
「おかしいな………。だとしたら、あの時の男は一体誰だ? まさか、もう一人兄弟がいるのか?」
「兄上の身の回りの世話をしていた者ならいる。もしや、その者がしでかしたのかもしれぬ。あの当時は不衛生な場所があったので、鼠が大量発生したのだ。だから、あちこちにワナを仕掛けたという話は聞いていたのだが、まさか、その鼠の一匹だったとは……済まなかった」
珠羅は、申し訳なさそうに頭を下げた。
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